衆院選・自民党支部有料ネット広告「公選法違反の疑い」について考える
自民党とその総裁の高市早苗首相について、2月の衆院選挙における公選法違反疑惑が、一部メディアで問題になっています。
一つは、自民党の支部長にもなっている選挙区の公認候補者の多くが、「違法な有料広告動画」を流した疑惑、もう一つは、高市早苗陣営の「中傷動画」拡散疑惑です。
今回は、日刊ゲンダイが、ほぼ独壇場で報じている「違法な有料広告動画」を流した疑惑について、公選法上の問題点、犯罪の成否のポイントについてお話ししたいと思います。
自民党支部有料広告動画の違法の疑いの指摘
3月10日には、鷲尾英一郎氏(新潟4区)、3月30日には宮崎政久氏(沖縄2区)の疑惑が報じられ、5月13日には宮城県の全5選挙区から出馬し当選した土井亨氏(1区)、渡辺勝幸氏(2区)、西村明宏氏(3区)、森下千里氏(4区)、小野寺五典氏(5区)の5氏が、県連主導で「違法な有料広告動画」を流した疑いが報じられ、5月20日には丸川珠代氏(東京7区)が出演する、違法の疑義のある有料広告動画が配信されていたことが報じられています。
丸川氏の動画内容は記事に詳細な記載がなく、ネット上で当時の動画も確認できないため不明ですが、その他の自民党議員に関する広告動画の手法は概ね共通しています。
衆院選当時、異例の“1億回超え”再生で話題となった(そして多額の広告費用が問題となった)、高市総理の政党としてのメッセージ動画を利用し、メッセージ動画に候補者の映像、画像が急にカットインしてくる手法を用いています。高い高市人気にあやかり、高市氏に関心がある視聴者が候補者氏名を目にするように、高市氏のメッセージから、いきなり映像が切り替わり、候補者の氏名等が表示されるように編集された動画です。
候補者は、あくまで「政党支部長」の肩書で出てきています。動画中、投票の依頼、呼びかけは行っていませんが、選挙期間中、もしくは公示直前を含む選挙期間のみ、これらの広告動画がネット掲載されていたもので、その動画が選挙区内で多数回再生されれば、投票に与える影響が大きいことは明らかです。
「政党の政治活動としてのネット広告だから適法」とする自民党の主張
自民党サイドは、これらの動画について、「政党支部の政治活動用有料ネット広告だから適法」という主張をしているようです。
確かに、公選法で禁止されるのは「選挙運動用」の広告であり、典型的には「候補者」に対する「投票依頼」が対象となります。
違法な選挙運動用ネット広告の典型例としては、2023年の江東区長選で前区長の木村弥生氏が、木村氏の画像と、「木村やよいに投票してください」との記載がある有料動画広告を動画投稿サイトに投稿し、有罪判決を受けているほか、今回の2月の衆院選でも、維新が“誤って”選挙期間中に党幹部の選挙応援演説を有料動画広告で配信し、外部からの違法の指摘を受けて大阪府警に自己申告し、会見で謝罪するという事態が生じています(なお、この時には、読売新聞が3月24日の社説で「ネット選挙広告 ミスで済まされぬ維新の失態」と強く批判するなど、各主要メディアが批判していました)。
では、本件はすべて「支部長」としての動画であり、「投票依頼」がない動画について、「候補者」の「選挙運動」ではないから適法、との趣旨であろう自民党サイドの説明は、妥当なのでしようか?
「選挙運動」と「政治活動」についての判例の見解
最高裁判例や実務上、「選挙運動」とは、「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」をいう、という理解が定着しています。つまり直接的な「投票依頼」がなくとも、それが「投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」と判断されれば、「選挙運動」となります。
そして、買収罪など、各条文の適用において、具体的にある言動が選挙運動に当たるか否かについては、一般的には、その時期、方法や対象者の範囲などの諸事情を総合考慮して判断されています。
有料ネット広告に関する公選法の142条の6は1項と2~3項に分かれており、「選挙期間中」であるかによって禁止の範囲が異なります。文書図画の頒布に関する142条と146条も同様に「選挙期間中」であるかによって禁止の範囲が異なりますが、その関係性について判示した判例(最判昭和36年3月17日。単に職業、氏名を印刷したに過ぎない通常の名刺の交付は142条に違反しないが、選挙期間中の個別訪問時に交付することは146条違反になるとした事案。)に準じて考えると、1項は外形内容自体からみて選挙運動のためのネット広告であるといえる必要があり、2項と3項では、外形内容自体からみて選挙運動といえないものについて、広告の時期、場所、相手等を総合考慮して、禁止される選挙運動用ネット広告であるかどうかが判断されることになります。
自民党支部有料動画の「選挙運動」性
報道によれば、例えば、宮崎政久氏(沖縄2区)のネット広告動画のひとつは、高市氏の政党動画に不自然にカットインし、
「5期14年の実績」
「自民党沖縄2区支部 支部長 宮﨑政久」
の文言や、宮崎氏の写真が掲載され、
「未来の沖縄を高市総理と共に」
「今こそ沖縄の皆さんの力が必要です」
とのナレーションが入る、といった動画のようです。動画内容に投票を直接呼びかける表現がないことは明らかですが、政党支部としての政治活動であれば、高市氏の自民党としての政治活動の動画をそのまま流すか、そこでのスローガンを政党支部に落とし込んだ主張をするべきであって、宮崎氏が突然カットインする必然性が見当たりません。
そして、支部長という肩書こそ用いているものの、自身の氏名をどの文字よりも大きく、しかもほかの文字とは色と背景を反転させて強調表示し、「5期14年の実績」などと“議員としての”実績を掲げ、さらには「未来の沖縄を高市総理と共に」「今こそ沖縄の皆さんの力が必要です」などと呼びかける内容は、一般の人から見て、支部の政治活動というよりも、議員個人として「候補者の氏名」が表示されており、しかも、未来の沖縄を自分に託してほしい、皆さんの力が必要、と言っているようにとらえる人も多いのではないかと思われます。
上記のような動画は、その内容だけからしても、142条の6第1項で禁止される、「選挙運動用」のネット広告であるといえる可能性が高いと言えます。
新潟4区の鷲尾英一郎氏も同様の状況のようです。こちらでも、高市氏のメッセージ動画に鷲尾氏が、当時の近い時期に撮影したと思われる、雪が高く積もった情景を背景に突然カットインすると、赤地に白抜きという非常に目立つ形で
「支部長 鷲尾英一郎」
という氏名が、
「新潟県第四支部」
「自由民主党」
の、同様に大きい文字とともに、画面いっぱいに表示され、
「新潟4区は鷲尾英一郎です」
と語っていました。こちらも、動画内容だけからしても、1項で禁止される「選挙運動用」のネット広告に当たる可能性もあると言えます。
また、1項で禁止されるネット広告に当たらないとしても、こうした動画が、それまでも継続的に作成されていたのではなく、衆院選の時期に向けて作成され、ほとんど選挙期間中だけ公開されていた場合、動画内容だけでは「選挙運動用」といえない場合であっても、総合的にみて、「選挙運動用」といえます。この場合は、142条の6第2項で禁止される、「選挙運動用」のネット広告に該当することになります。
例えば宮崎氏の場合、衆院選公示2日前の1月25日から投開票日前日の2月7日までの期間のみ公開され、広告出稿の費用を出したスポンサーは宮崎氏の妻名義だったことも報じられています。また、鷲尾氏は、選挙期間の後半に大量出稿したようです。
宮城県の全5選挙区の各候補者についても、動画広告は衆院選の時期に向けて作成され、メディアや政党の情勢調査の優劣に応じ、小野寺陣営は公示日から3日後の1月30日、西村氏と森下氏は2月5日、土井氏と渡辺氏は投開票前日の7日に配信を停止していたとされています。
今回問題となっている動画は、すべて政党支部長の動画のようですので、自民党サイドからは、「支部としての動画広告であり、142条の6第4項の適用を受け、第1項で違法となる場合を除き、2項や3項で違法とはならない」との主張がありえますが、これも、これまでの同条項の解釈、説明からすると通らない主張だと思えます。
142条の6第4項との関係
ここで問題となるのが、142条の6第4項との関係です。
同条項は、
「広告(第一項及び第百五十二条第一項の広告を除くものとする。)であつて、当該広告に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面にウェブサイト等を利用する方法により頒布される当該政党その他の政治団体が行う選挙運動のために使用する文書図画を表示させることができる機能を有するものを、有料で、インターネット等を利用する方法により頒布する文書図画に掲載させることができる。」
とされているため、政党等が行うネット広告のうち、政党等の選挙運動のページに飛ぶ機能を有するものについては、適用を受ける可能性があります。
政党等のページにリンクしてない場合は、そもそも同4項の適用を受ける前提を欠くので、2項、3項により、選挙期間中であれば、外形内容自体からみて選挙運動といえないものでも、広告の時期、場所、相手等を総合考慮して、禁止される選挙運動用ネット広告と判断されるネット広告は違法となります。
問題は、動画広告に、政党ホームページへの直接のリンクがあった場合です。
4項の文言上は「文書図画を表示させることができる機能を有するもの」としか書いていません。それが、政党等の選挙運動のページを「表示させることができる機能」があればよく、クリックしようが、自動で遷移しようが、動画広告と選挙運動のページが直接リンクしていればよいという趣旨だとすると、動画広告については、「候補者」でもある支部長は、政党支部として、選挙運動用ウェブサイトに直接リンクする形さえとれば、2項の適用がなく、1項を潜脱するような政治活動を装った動画広告が横行し、選挙期間中も顔出し、名前出しで広告が出し放題、ということにもなってしまいます。
それは、公選法の基本的な考え方や、その改正の趣旨とは全く異なります。
法改正で同条項が設けられた2013年時点では、動画広告が想定されておらず、「バナー広告」をクリックしてリンク先に飛ぶことが想定されていました。
2013年の法改正時に、総務省が出した公選法のガイドラインでは、本件に関係する問として、
『【問25】 政党支部が選挙運動用ウェブサイトに直接リンクする有料インターネット広告を掲載させる場合、その支部長の氏名や写真を掲載することができるか』
との問いに対し、一般論として
『当該広告にその支部長の氏名や写真を表示することのみをもって直ちに選挙運動性を有するとは断定できない』
として下記のような表示例を示しつつ、
『当該広告が当該支部長や当該政党等のための選挙運動用文書図画と認められるときは、選挙運動用有料インターネット広告を禁止している公職選挙法142条の6第1項の規定に抵触するものと考えられる。』
としています。
このように、支部の広告である場合に、支部長の氏名や写真の表示が“直ちに”は選挙運動にならない例として、支部の名称を大きく書き、支部長名や顔写真を小さく、従たるものとして表示するバナー広告を例示しているのは、候補者が支部長である場合、支部長名や顔写真が主として表示されているバナー広告は選挙運動性が高いので、特定の選挙に与える影響が大きいものを無制限に許容することはできないという考え方によるものです。
法改正前から行われてきた政党等の有料バナー広告による政治活動は尊重する必要があるため、改正法による規制の対象とはならないことを上記ガイドラインによって示したのですが、それは、政党等の選挙運動のための有料インターネット広告を無制限に認める規定ではありません。
「選挙運動の対価」についての公選法の基本的な考え方と有料ネット広告の禁止
こうした解釈は、公職選挙法の様々な規定の趣旨からも根拠づけられます。
142条の6が「選挙運動用」のネット広告を禁止する趣旨は、これを許容するならば、資金力の多寡により、選挙結果が大きく左右されることとなってしまい、選挙の公正を害するからです。
この考え方は公職選挙法上様々な条文で見られ、例えば、日本の選挙戦において、(いまでも)名前と顔を売り込むことが重視される現状にあって、147条の2では、候補者が選挙区内に対し、自筆の答礼のためのものを除き、年賀状等の「あいさつ状」を出すことを禁止し、152条で挨拶を目的とする有料広告を禁止しています。また、上記で少し触れた142条、および143条は、ビラやチラシ、ポスターといった従来型の文書図画を念頭に厳しい制限を設けていますが、146条はさらに、こうした禁止を免れる行為として、「演芸等イベントの広告を装うこと」や、「氏名に代わるシンボル・マークの使用」などを例示して、脱法行為を禁止しています。
これらの条文も142条の6と同趣旨であり、つまりは日本の公選法は、お金をかけて氏名や顔の売り込みや、投票依頼等を行うことを固く禁じ、選挙の公正を守ろうとしているのです(アメリカの選挙とは大きく異なります)。
候補者がたまたま支部長であれば、支部長の肩書を使えば顔も名前も出して広告ができるとすると、政党支部長たる候補者には、無所属候補には使えない特権が与えられることになってしまい極めて不公平です。日本の公選法の基本的な考え方からして、そのような規定を設けることはあり得ません。
総務省のガイドラインが、支部の名称を大きく書き、支部長名や顔写真を小さく表示するバナー広告について「直ちに選挙運動性を有するとは断定できない」としているのは、それを、政党等による有料広告の“限界事例”として例示している趣旨だと考えられます。
総務省が示した有料インターネット広告についての公選法の適用についての解釈は、時代の進展によって、広告の主流が動画に変わったとしても同様に解されるべきです。支部長の肩書を使っていたとしても、その支部長が候補者でもある場合には、候補者(支部長)本人の顔写真と氏名を大きく使った有料の動画広告は認められる余地はないでしょう。
プラットフォーマーによる自主規制ルール
政治的な動画広告を受け入れる企業のなかには、自主規制ルールを設けるところがあり、例えばLINEヤフーでは詳細な「広告掲載基準」(https://ads-help.yahoo-net.jp/s/article/H000044771?language=ja および https://ads-help.yahoo-net.jp/s/article/H000044878?language=ja#c01)が公表されています。
これを見ると、リンクの設定を前提とするような記載がみられるうえ、動画広告に支部長の出演を認めたうえで、
「支部長の登場時間は、動画全尺の概ね3分の1以下であること」
「氏名の記載領域が政党名および支部名、総支部名の記載領域より小さいこと」
などを求め、動画内容についても、
「特定の選挙について言及しないこと」
「投票を呼び掛ける表現を使用しないこと」
「「選挙」という文言を使用しないこと」
「過去の当選回数や、個人の政策、および現職や前職などの経歴、学歴、所属連盟、生年月日、保有資格、年齢、出身地、家族構成、出版書籍等の個人のプロフィール情報を記載しないこと」
などを求め、上記ガイドラインに概ね沿うような動画広告を掲載しようとする努力が見られます。
しかし、まだまだ形式的に過ぎる面があり、今回の動画のように、フォントの強調や不自然なカットインなど、支部長個人を目立たせ、実質選挙運動を行うような事例には対応できていないように思われます(なお、上記「広告掲載基準」では、判断基準を満たしている場合も、選挙運動に該当すると判断した場合は掲載できず、選挙期間直前(選挙期間含む)に広告を大量にまたは独占的に掲載した場合、選挙運動に該当する可能性があるとも警告していて、LINEヤフー社であれば、実質的判断で排除できていた可能性もあります)。
また、このような詳細な自主規制を設ける企業は多数派とはいえず、ネット広告のなかには、緩い規制で出稿されるものも少なくないのではないでしょうか(だからこそ、LINEヤフー社の基準に照らして不適切と思われる動画が、今回、自民党から投稿されているといえます。)。
やはり、バナー広告のみを前提とした10年以上前のガイドラインでは限界があり、広告動画について、総務省が明確なガイドラインを早急に示すべきであるといえます。
政党支部有料ネット広告を野放しにすることは「選挙の公正」を著しく害する
今回の鷲尾氏や宮崎氏らの動画のように、選挙期間中、候補者が、支部長として不自然な形で目立つ広告動画を掲載することが法的に許されるのであれば、それは脱法的な広告を法が許していることになり、政党に属している支部長のみが、その資金力で選挙結果を大きく左右できることとなり、選挙の公正を甚だしく害することになります。
もしこのような現象を許していると解される余地があるのであれば、公選法の基本的な趣旨・理念に反する事態を招いているということであり、早急に法改正が必要であると言えます。
いずれにしても、本件は日刊ゲンダイ“のみ”が報じるような問題ではなく、日本のこれからの民主主義にとって重要な問題であり、国民も主要メディアも、もっと関心を向けるべき問題です。
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