「公明連立離脱」で“高市新政権は挫折、内閣総辞職の理由は消滅、石破首相継続しかない!

自民党の現状と、経過を振り返り、これからどうするべきか考えてみました。
郷原信郎 2025.10.14
誰でも

10月10日の自民党高市早苗総裁と公明党斉藤鉄夫代表との会談で、連立協議が決裂し、石破政権後の日本政治の枠組みはまったく見通しがつかないカオス状態となりました。

26年間続いてきた「自公政権」は、新たな政権においてもその枠組みのベースにあったはずですが、昨日の自公協議直後の高市氏の会見の言葉で完全に崩壊しました。

公明党は、自公政権の下での自党の支持低下の原因になった「政治とカネ」問題に対して、自民党に抜本的な対応を強く求めていました。

そのような公明党の要求に対して、新総裁としてどういう姿勢で臨むのかが問われているのに、

「党内手続きを経るためにこれから検討しますと答えたら、一方的に連立離脱を通告された」

などと高市氏が会見で述べた時点で、もはや自公の関係修復の余地はなくなったといえます。

ここで、現在の日本の政治状況を、時間軸を現時点に合わせて客観的状況を把握することと、このような状況に至るまでの経過を時間軸を遡って考えてみることが必要です。

まず客観的状況ですが、自民党は衆議院の過半数の議席を40近く割り込んでいるので、1党との連立では過半数を確保することができません。これまで長期間続いてきた公明党との連立関係を安全パイのように考え、連立拡大の方にばかり目を向けたために、肝心な、過半数を超えるための絶対条件だった公明党との連立関係を失ってしまいました。

現状では、自民党にとって、2党と連立を組んで過半数を超えることはほぼ不可能だ。

日本維新の会は、実質的に関西の地域政党に近い政党です。その関西で、自民党とはこれまで選挙で熾烈な争いを繰り返してきました。日本維新の会にとって、自民党と連立を組むとすれば、その大義は「副首都構想」で合意して結党以来の目標としてきた大阪都構想を実現することしかありえません。ところが、その構想に最も強く反対してきたのが大阪自民党です。その遺恨を乗り越えて両党が連立を組むというのは、よほど個人的な信頼関係でもなければ困難です。今の高市総裁の体制ではまず不可能だと言っていいでしょう。

国民民主党との連立も、その背後に「連合」という組織がある以上、もともと実現困難な話である上に、自民党と組んでも過半数に届かず、国民民主党が掲げる「手取りを増やす」という政策実現に結びつかないわけですから、同党にとって連立を組む意味がありません。

立憲民主党との大連立など、もともと全くありえない話です。

このような現在の客観情勢のもとでは、国会を召集して首班指名を行っても、比較第一党なのでなんとか高市新総裁を首相に指名することはできても、石破政権の時のように自公の連立に加えて他の野党とも一定の協力関係があるというわけでもないので、予算・法案を成立させる政権の基本的枠組みができません。組閣をすること自体も無責任ですし、そもそも、内閣としての体をなしていません。

一方の野党は、立憲民主党の安住幹事長が中心になって、野党協力による首班指名を各野党に呼びかけています。

しかし、仮に首班指名に持ち込んだとしても、各野党間の政策・基本理念の違いはあまりに大きく、そのような野党が協力して連立内閣を組んだとしても、国民の支持が得られると思えません。今回の日本の政治の枠組みの崩壊は、参議院選挙を契機とする自民党内の党内抗争の勃発という、完全に「自民党の大失態」で、それによって政権が野党に転がりこんだとしても、その新政権に国民が期待することはあり得ないでしょう。

自民党の臨時総裁選での高市新総裁選出を発端とする新政権の枠組みづくりは完全に破綻し、ほとんど実現不可能な状態になったといっていいと思います。

そこでもう一つ重要なことは、時間軸を遡らせて参議院議員選挙後の経過を改めて振り返ってみることです。その経過の中で、そもそもそのような経過に至った原因、そこで活発に動いた人たちの意図と目論見について、現在の状況から明らかになったことも多数あります。

7月の参院選で石破首相が必達目標とした「自公で過半数」に3議席届かなかったことから、自民党内と政治マスコミの側から「石破首相退陣は当然」という意見が噴出しました。

自民党内で真っ先に動いたのが、石破政権下で片隅に追いやられていた旧安倍派のいわゆる裏金議員、そして非主流派の茂木派。唯一派閥として残っていた麻生派は表立った動きは見せてはいなかったものの、派閥内で何人かの議員が「石破降ろし」に向けて声を上げていました。

そして、政治マスコミの側で「石破降ろし」の中心となったのは、何といっても読売新聞です。

この時、自民党総裁の任期を2年以上も残している石破氏が首相退陣するのが当然だという論調の最大の理由は、「参議院選挙で自公政権を否定する民意が示されたのだから、その自公政権のトップである石破首相は退陣するのが当然だ」というものでした。

過半数に3議席届かなかっただけだったので、無所属議員を加えることなどでなんとか参議院過半数を維持することもできなくはなかったのに、その可能性などはほとんど論じられることなく、「歴史的惨敗」という言葉だけが強調されました。実際には、第一次安倍政権時の2007年の参議院選での敗北と比較しても、今回の議席減ははるかに少なく、歴史的惨敗などではありませんでした。

そしてそもそも政権選択選挙ではない参議院選挙での勝ち負けを、そのまま政権の枠組みを変えることに結びつける議論自体が、現在の日本の政治の前提となっている衆議院議院内閣制の下では、本来ありえません。

では、なぜ「石破首相退陣が当然」のように言われたのでしょうか。

一つは「自民党内のガバナンス」という理由、すなわち「組織のトップとして敗北の責任を取ってけじめをつけるべき」という意見でした。

石破首相は昨年の秋の衆院選と今年7月の参議院選2回の国政選挙で敗北したのだから総裁を辞任し首相を退陣するのが当然だというのです。「企業経営者でも3回連続赤字を出したら辞任するのが当然」「結果に対してはトップが責任を負うべき」などという声が多かったと思います。「結果責任」を重視する考え方です。

もう一つ言われていたのが、「石破政権は衆議院での過半数割れに加えて参議院でも過半数を失い政権運営の見通しがたたなくなったのに、野党との協力関係を作って政権運営を担う見通しが建てられていない。だから退陣が当然だ」という意見でした。

この二つの理由のうち、後者の「政権運営の見通し論」自体には、それなりの合理性があります。政権運営を行っていくことは首相にとって不可欠であり、それが見通せないのであれば退陣するしかないと言うのは当然です。しかし、参院選敗北後の石破首相にとって、政権運営の見通しが立っていなかったと言えるでしょうか。

昨年秋の衆院選で自公が少数与党となった後も、森山幹事長の人脈もあり、野党とも臨機応変な対応で予算・法案を全て成立させてきました。その政権のままであれば、参議院で過半数に3議席足りなくなったことが政権への決定的な支障になるとは思えません。参院選後、石破政権側から特に野党側に対して目立った動きがなかったからといって、政権運営への見通しが暗くなったわけではないのです。

問題は、もう一つの自民党内で中心を占めていた「ガバナンス論」です。

ここで重視する「結果責任」とは、「結果に対して負うべき責任」です。一方で、目標達成のために組織をまとめたり問題に対応したりするのが「遂行責任」です。

上場企業であれば、経営者は株主に対して利益を実現する責任を負います。会社に損失を与え続ければ、その株主に対する責任をとり、辞任というのも当然の対応です。

しかし、政党の場合、トップが負う責任はそのように単純なものではありません。選挙で国民の支持を得るとともに、その支持を活用して党の政策を実現します。そして、政権を担う政党であれば、国政を安定的に運営して行く責任を負います。このような複雑な責任を負う政党、とりわけ政権与党のトップの責任を、単純な「結果責任」で考えることはできません。むしろ「遂行責任」を中心に考えることの方が、政党にとっては合理的なはずです。

昨年9月の総裁選で石破氏が自民党総裁に就任、直後の衆院選は、当時の政治資金パーティー裏金問題への批判からは当然の結果とも言える自民党敗北でした。その結果、少数与党となったものの、石破首相は、弱い党内基盤の下で何とか党内体制を維持し、野党との協力も得ながら予算、法案を可決させ、コメ大幅増産の方向への農政改革を打ち出し、参院選直後にはEUなどにも先がけてトランプ関税を25%から15%に引き下げる合意に成功しました。石破政権は、今後、本格的に石破カラーを出して政権を運営していくべき時でした。遂行責任を果たすという面ではこれからが本番だったといえます。

ではなぜ、自民党内ではこの「結果責任」中心の単純な考え方がまかり通るのでしょうか。そこには、組織の根幹に、勝ちと負けを峻別し、負ければ潔く腹を切って責任を取る、というような旧来の日本型組織の単純な考え方があるのでしょう。上位者には、結果を出すまでのプロセスについて「言い訳」せず、表面的な潔さだけが評価される。そのような背景の下で、日本の政党の中心であった自民党で、「結果責任」中心の考え方が当然視されてきたということではないでしょうか。

しかし、それは、55年体制の下で政権基盤が安定し、その政党のトップである自民党総裁選が「最大の政治上の決戦」だった状況だからこそ通用する理屈です。 55年体制の下での安定政権だった時代は、「サル山」のような外部から遮断された環境だったからこそ、その中で「ボス猿選び」という内側の争いをする場合には、結果責任重視、「ケジメをつける」で充分だったのです。しかしそれは、現在のように国民の要請も民意も複雑多様化し、それに応じて多党化時代を迎えた情勢の下では全く通用しません。

このような「サル山的ガバナンス論」に基づく「石破おろし」が実現し、自民党総裁に就任した高市氏は、まずその第一段階で、26年間の連立関係で「ウチ」の存在と見ていた公明党が、実は理念も政策も違う「ソト」の存在であるという「当然の現実」に直面し、政権樹立への道はただちに行き詰りました。

結局、「党内ガバナンス論」は全く正当性がなく、「政権運営見通し論」に徹して考えるべきでした。そういう観点からは、「遂行責任」を中心に考え、自民党が昨年のフルスペックの総裁選で3年という任期を石破首相に委ねたのであれば、まず党内基盤、政権基盤を安定させるための期間に1年を費やし、そこから石破政権として本格的にその独自の役割を果たす段階に入る、というのが合理的な考え方であり、国民もそれを期待していたはずです。

では、このようにして自民党が臨時総裁選で選出した高市新総裁による新政権の発足が全く巻き戻せない状況になった現状においてどうしたらよいのでしょうか。

まず何よりも重要なことは、時間軸的な経過で見た時、そもそも「石破降ろし」という自民党内の誤ったガバナンス論に基づく権力闘争によって「政権運営が見通せない重大な危機的状況」に至ったことを率直に認め、その誤りを是正することでしょう。本来そのような動きから生まれた自民党党則の「総裁選前倒し規定」による賛否を問う手続を行ったこと自体が誤りでした。

しかも、そこには、「石破総理退陣へ」の号外まで出して、石破首相退陣を既成事実化しようとして失敗し、その後も石破降ろしの政治的画策を露骨に行った「読売新聞」という存在が深く関わっていました。自社の「誤報の検証」と称して、前倒し総裁選の賛否を問う手続の開始の日の朝刊で、現職総理の総裁を「虚偽説明」と批判し、前倒し賛否に決定的な影響を与えたのです(【「石破降ろし」に正当性なし。読売「現職首相ウソつき」批判“検証記事”は総裁選前倒しに重大な影響】)。それもあって、総裁選前倒し賛成意見が一気に拡大し、石破総裁の辞任の決断につながりました。

このような読売と結託して「石破降ろし」を画策した自民党内勢力がいたとすれば、それは「反党行為」そのものです。このような状況で党の決定的な分裂を避けるため自ら総裁辞任を決断した石破総裁の意思表示には瑕疵があり、無効だったという考え方も可能でしょう。その場合、「総裁が欠けた」との要件を欠くので、その後の臨時総裁選は無効となります。

もっとも、そのような考え方で時計の針を9月2日の時点にまで戻そうとすれば、自民党内は大混乱に陥ることになりかねません。

そこで現実的な選択肢としては、すでに選任している高市新総裁の下での新執行部を維持しつつ、現在の石破内閣を維持することです。

現状は、公明党との連立による石破政権がしっかり内閣としての役割を果たし、政府も機能しています。高市新総裁による政権樹立が挫折し、新内閣発足の見通しが立っていないのであれば、現在の内閣と政府の体制を維持するのは当然です。高市氏が、衆議院196議席しかない自民党の総裁だというだけでは、内閣総辞職を行う前提に疑問が生じたと言うべきでしょう。石破首相としても、政権の枠組みが定まらない現状のままの内閣総辞職は無責任との批判は免れません。

自民党内では、高市執行部の下で党内の主要人事が行われただけで、党内体制が固まるところにまでは至っていません。

極めて異例ですが、石破首相は今後も旧総裁として、党内にもある程度の権限を有し、高市新総裁との協調体制を作ることによって党運営を行い、その中で、野党との連立や協力を模索し、その見通しが立った時点で内閣総辞職、もしそれが困難となった場合には、高市総裁の方が辞任するほかないのではないでしょうか。

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