2026年 年頭メッセージ
明けましておめでとうございます。
昨年は、7月の悪性リンパ腫での緊急入院で、皆様に大変ご心配をおかけしました。
一時は、かなり重篤な病状でしたが、幸い、抗がん剤治療の結果、奇跡的な回復を遂げることができました。こうして、ほぼ元の体調で新たな年を迎えることができたことは、入院直後の時のことを思うと夢のような話です。
何か不思議な力が働き、与えられた命のようにも思います。それを活かして、今後、この国に、社会に対して、やるべきことにしっかり取り組んでいきたいと思います。
2025年の流れ
そこで、2026年を迎えた世の中の状況ですが、日本国内では、昨年は、SNSの社会的影響の増大に伴って、選挙の在り方をはじめ、様々な社会・政治問題をめぐる議論が二極化して相互対立が激化し、それが選挙や選挙後の情勢にも大きな影響を与える傾向が強まりました。それが典型的に表れたのが、兵庫県等の地方自治体でした。
そして、7月の参院選後の自民党内での「石破降ろし」の動きと、それと結託した一部のメディアの動に末に高市政権が発足し、国政レベルでも、台湾有事をめぐる中国との関係など、外交・軍事上の問題、財政・金融政策などの内政上の問題をめぐって、分断対立の傾向が一層顕著になっていきました。
トランプ政権によるベネズエラ攻撃
こうして迎えた2026年、年明け早々から、米国トランプ政権が、南米ベネズエラに対する攻撃を行い、マドゥロ大統領夫妻の身柄を拘束して米国に移送したことが報じられ、世界に衝撃を与えています。
トランプ政権としては、形式上は《麻薬犯罪者に米国での裁判を受けさせるために海外から連行したもので、国内法的に合法》と説明するのでしょうが、不正選挙など大統領としての地位の正当性に疑義があるとは言え、一つの国を統治支配していたマドゥロ氏を「単なる犯罪者」と扱うことは国際法的には通用しません。
ロシアにとってのウクライナ問題、中国にとっての台湾問題が、もともと「自国の一部」との認識から生まれたものであるのに対して、ベネズエラは、米国にとって「全くの他国」であるところに、大きな違いがあります。
米国とベネズエラの対立の背景には、埋蔵量世界一とも言われる原油資源をめぐる利権争い、中国・ロシアが関係を深めることへの警戒等があり、さらに根本的には、チャベス前大統領時代からの「反米」「反グローバリズム」「マイノリティ等の弱者の権利保護」などを掲げた「ボリバル革命」との対立の歴史など複雑な背景があります。
今回のベネズエラ攻撃が、今後、国際的な分断対立にどのように影響していくのか、ますます先に見えない状況になりつつあります。
少なくとも、「力による現状変更」として国際法上「一線を超えたもの」であることが明らかなベネズエラ攻撃は、「台湾有事」を警戒する日本政府としても、到底是認することはできないはずです。しかし、高市首相は「邦人の安全」ばかりを強調し、「国際法」に一切触れない「空気のようなコメント」を出しただけでした。
外交面で多くの困難に直面する2026年の日本にとって、高市首相の姿勢は大きな不安を感じさせるものと言えます。
東京五輪談合事件
そうした中での今年の私自身の取組みですが、まず、昨年まで3年越しで刑事弁護に取り組んできたセレスポ・鎌田義次氏の五輪談合・独禁法違反事件です。退院後に作成・提出した上告趣意書で、刑事事件に関して行うことは一段落し、最高裁(第二小法廷)の判断を待つだけですが、今年は、昨年12月にセレスポが提起した公正取引委員会の行政処分に対する取消訴訟が2月に東京地裁で口頭弁論が開かれ、本格的に始まります。
本件のような「検察捜査が先行する形の独禁法違反事件」の場合、公取委が、独禁法の判断権を独占する専門機関としての「検察の下僕」に成り下がってしまうということについて、リニア談合事件の際にも指摘しました(【「リニア談合」告発、検察の“下僕”になった公取委】)。
今回の五輪談合事件も同様の構図で、本来、公取委の独禁法運用の常識からすると、凡そ、独禁法違反、ましてや悪質・重大事件として刑事告発を行うことなどあり得ない事件なのに、検察の意向に唯々諾々と従って刑事告発を行いました。それに伴い、公取委としても排除措置・課徴金納付命令の行政処分を行ったのですが、そのような独禁法の適用が、従来の解釈の枠組みを大きく逸脱していることは、良識ある公取委職員であれば十分に認識しているはずです。
何と言っても驚いたのは、その行政処分の意見聴取手続の際に根拠とされた証拠が、すべて、刑事事件でただ一人公訴事実を全面的に認め、早期に有罪判決が出された、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の元次長の刑事確定記録中の証拠だけで、公取委の審査官が作成した調書などは何もないということです。
刑事事件での経過や主張内容からしても、東京地検特捜部の捜査が独禁法を十分に理解して行われたとは思えません。そのような検察官調書だけで、五輪談合事件での「独禁法違反としての不当な取引制限」をどのようにして立証しようとしているのか。今年、2月に第1回口頭弁論期日が予定されている行政処分取消訴訟で、国・公取委と、しっかり戦っていきたいと思います。
なお、五輪談合刑事事件の「上告趣意書」は、私が、悪性リンパ腫の入院を終え、8月末に退院した直後、全力で作成に取り組んだものです。7月15日に悪性リンパ腫でICUに緊急入院した時点で、上告趣意書の提出期限が8月10日と迫っていたので、2ヶ月延期を申請しましたが、その時点では、主任弁護人として書面を作成提出できるようになるか全くわかりませんでした。その後奇跡的とも言える回復で体調が比較的良い状態で執筆に取り組むことができました。
この上告趣意書では、この事件で独禁法の刑事罰を適用することの根本的な問題を判例違反、憲法違反として主張しました。1990年に検察から公取委に出向して以来、「独禁法の刑事罰の適用と課徴金の関係」を専門分野としてきた私にとって「集大成」と言うべきもので、自分の「遺作」になるかもしれないという思いで、期限ぎりぎりまで全力で執筆しました。。
この上告趣意書は、匿名処理した上で、郷原総合コンプライアンス法律事務所のホームページでその一部を公開しています。8万字を超える長文ですが、冒頭の約20頁の「総論」で、この事件の概要と問題点について書いています。総論だけでも、この問題を独禁法違反、談合ととらえることがなぜおかしいのかを理解して頂けると思います。ご関心のある方は、是非お読みください。
この五輪談合事件では、何が談合なのか、独禁法違反なのか、全くわからないまま逮捕・勾留・起訴されたセレスポの専務取締役の鎌田氏は、保釈請求が5回にわたって却下され196日間も身柄拘束されるという典型的な「人質司法」による人権侵害を受けました。
特捜部などの「立件型事件」で、検察が無罪主張を抑え込むための手段とする「人質司法」の非道をあらゆる方法で訴えていくことに、引き続き全力を尽くしたいと思います。
兵庫県問題
そして、昨年来、斎藤元彦知事をめぐる「分断対立」が続く兵庫県の問題、私も、立花孝志氏の竹内元県議に対する「死者の名誉毀損」を含む告訴について、代理人として告訴状を作成提出したほか、様々な問題で関わってきました。今年は、その立花氏の刑事公判のほか、子守康範氏の侮辱罪の略式命令正式申立事件の公判も、神戸地裁で始まります。
子守氏の事件は、【兵庫県斎藤知事をめぐる分断対立を背景とする「SNS侮辱略式起訴騒ぎ」と“公文書偽造・同行使罪”の疑い】でも述べたように、侮辱罪の法定刑引上げの刑法改正、被害者特定事項の秘匿措置導入の刑訴法改正が、SNSの社会的影響の飛躍的増大という状況の中で、法の趣旨とは大きく異なる方向に悪用されかねないことを示す事例です。そのようなこの事案の根本的な問題を公判でしっかり示すことができるよう、弁護人として最善を尽くしたいと思います。
特殊窃盗事件・工具痕鑑定問題
控訴審で工具痕鑑定の信用性が否定されて12件が無罪とされ確定した「特殊窃盗事件」について、国と福岡県に対して損害賠償を求めて東京地裁に提起した国家賠償請求訴訟も、主張の整理はほぼ終わり、立証段階を迎えます。
福岡県警科捜研による「被疑者が所持していた工具と犯行現場の工具痕が同一」との工具痕鑑定により犯人とされて起訴された窃盗事件で、14件中12件が実質的に工具痕鑑定しか証拠がありませんでした。「工具痕鑑定」というのは、実際には、犯行現場で採取した工具痕と被疑者が所持していた工具とを比較して、主観的に類似性を判断しただけのものなのに、それが研究報告も行われた統計的根拠に基づくもので、「異なる工具で一致と判断される確率は 256億分の1」などと検察官が主張し、それを一審裁判所が採用して全面有罪判決を出したものの、控訴審で工具痕鑑定の信用性が否定され12件について無罪の判断が示され確定した事件です。
佐賀県警科捜研でDNA鑑定をめぐる不祥事が発覚して「科学的鑑定」に対する信頼が揺らぐ中、合理的根拠のない「確率論」で一審裁判所に誤った判断を行わせた検察官と鑑定人の不法行為の成否に対する司法の判断が注目されます。
《日本に「法と正義」を取り戻す会》
昨年5月に設立し、ウェブサイトを立ち上げた《日本に「法と正義」を取り戻す会》、6月に、神戸、横浜での講演会、東京でのシンポジウムを連続開催し、活動を開始した直後に私が緊急入院したため、活動休止となり、現在に至っています。リアルでの対外的活動を本格的に再開できる見込みの今年の春以降、活動内容を再検討し、皆さんに提案したいと考えています。
昨年以上に「激動の年」になると予想される2026年、「社会に向けての自分の役割」をしっかり果たしていきたいと思います。
一層のご支援をよろしくお願い致します。
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