兵庫県知事選公選法違反、告発状「補充書面」を提出した理由について

これについての会見は動画でアップしています。
郷原信郎 2025.01.25
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 令和6年12月2日に、私と上脇博之神戸学院大学教授とで提出した、兵庫県知事斎藤元彦氏と株式会社merchu代表取締役折田楓氏を被告発人とする告発状(同月16日受理)について、昨日(1月24日)、神戸地検と兵庫県警に、告発状補充書面を提出しました。その概要は、以下のとおりです。

《告発状補充書面の概要》

告発状において「厳重な処罰」を求める趣旨は、告発にかかる公選法違反が、同法の目的に照らし看過できない重大事案として厳正な処罰が必要であることを述べているものである。そこで処罰を求める主たる対象は被告発人斎藤元彦であり、被告発人折田については、情状を考慮し相応の処分が行われるべきと思料するものである。

折田氏が社長を務めるmerchu社は、地方自治体等から受託するSNS広報業務を基幹業務とするPR会社である。本件知事選では、同社が得意とするSNS広報戦略のスキルを駆使し、斎藤氏の選挙運動において成果を挙げた。公職選挙に関するものでなければ法的問題もなく、社会的価値が認められるものだったが、公選法の知識が乏しかったことから、違法性の認識が希薄なまま、斎藤氏の選挙に関するSNS広報業務を行ったと考えられる。それによって被買収罪の成立が否定されるわけではないが、情状面では考慮されるべき要素である。

折田氏は、同社会議室で斎藤氏をまじえて行った会合風景などとともに、斎藤氏側から依頼されて行ったSNS広報戦略の内容等を詳細に明らかにするnote記事を、本件知事選挙の3日後に投稿した。それにより本件公選法違反の嫌疑を積極的に明らかにし、その後投稿の一部を削除したものの、大部分はネット上に掲載し続けている。

折田氏の対応は、主体的・裁量的なSNS運用を行っていたことを自発的に明らかにし、それを、ネット上で開示し続けて本件事案の解明に協力しているものと評価できるものである。また、告発状提出後に兵庫県民から告発人に提供され、捜査機関に送付した資料・情報により、同社が行っていたSNS広報活動の詳細が明らかになり、同note投稿の信用性は一層強く裏付けられている。

一方、斎藤氏は、元総務省官僚で、知事職を3年以上務めた経験からも、公選法についての知識は十分にあったと考えられ、merchu社側への依頼と対価支払が違法であることを認識していたのに、自ら同社を訪れSNS戦略の説明を受け、その後業務を依頼した。

本件選挙で当選し、知事職に復帰した後、折田氏のnote投稿により、同社が主体的・裁量的にSNS運用等の選挙運動を行っていた疑いが表面化した後、71万5000円の支払を公表したものの、「ポスター制作費であり、公選法に抵触しない」として違反を否定し、代理人弁護士が記者会見でnote投稿について「事実に反する部分がある。盛っている」などと、多くの点で不合理極まりない説明を行っており、到底信用できない。

本件告発後、知事定例記者会見等で質問を受けても、「公選法に抵触しない」と述べるのみで、自らの嫌疑について、真摯に説明する姿勢は全く見られない。

比較的最近の事例として、2019年の参議院選挙広島選挙区における河井克行元法相・案里参院議員夫妻の買収事件において、両名が公選法違反で公判請求される一方、受供与者側については刑事立件すら行なわれかったのに対して、市民団体が受供与者らを告発し、両名の有罪判決が言い渡された後に、検察官が99人について被買収罪の成立を認定した上で起訴猶予処分を行ったのに対して、検察審査会が、広島県議・広島市議・後援会員ら35人について「起訴相当」の議決を行い、1名を除く全員が被買収罪で起訴され、いずれも罰金刑の有罪判決を受けた事例がある。

同事件は、「投票並びに投票取りまとめの報酬」として、県議会議員・市議会議員らに10万円ないし100万円の現金が供与された典型的な買収事案であり、本件のような、過去に同種事例がないSNSを用いた選挙運動に対する報酬支払の事案とは性格が異なる。

また、同事件での受供与者らは、検察官から、河井克行氏のパソコンの中から発見された現金供与に関するメモに名前が記載されていることを告げられた上、検察官が処罰しようとしているのは河井夫妻のみであり、受供与者側は処罰しない旨を示唆されて、案里氏に当選を得させる目的の買収金だったことを認め自白調書に署名するなどしたものであり、自ら積極的に公選法違反事実についての事実解明に協力したものとは評価できない。

これらから、河井事件は、前記のとおり、受供与者側の事案の解明への寄与が評価できる本件とは異なる。

折田氏には、情状面で有利な事情が多々あり、犯情は極めて軽微と評価できる一方、斎藤氏は、違法性の認識も十分あったと認められるのに、本件公選法違反への対応は不誠実極まりないものであり、情状面で評価できる要素は全くない。

告発人らは、斎藤氏については厳重処罰が相当と思料する一方、折田氏については、警察捜査・事件送付においても、検察官の捜査・処分においても、上記の有利な情状が十分に評価・勘案され、起訴猶予処分を含む、可能な限り寛大な処分を行うべきと思料する。折田氏については、仮に、起訴猶予処分が行われた場合も、検察審査会に審査申立を行う予定は全くないことを付言する。

補充書面提出の目的

 我々告発人は、告発状提出の時点から、買収罪・被買収罪が必要的共犯(対向犯)であることから、やむなく両者を被告発人としたものですが、主として処罰を求めるのは斎藤氏であり、折田氏について処罰を求めることは本意ではないと述べていました。

 今回、敢えて、上記の内容の補充書面を提出した目的は、告発人としての処罰希望の対象を、公式書面で明確に表明することによって、捜査機関側が事案を解明し、情状に応じた適切な刑事処分を行うことが、少しでもやりやすくなるようにするためです。

 同書面の中で、河井夫妻の買収事件との比較に言及したのは、同事件については、検察官が、両名を公選法違反で公判請求する一方、受供与者側については刑事立件すら行なわなかったこと、市民団体が受供与者らを告発したのに対して、検察官が被買収罪の成立を認定した上で起訴猶予処分を行ったことを厳しく批判してきた経緯があります。

 同事件で検察審査会の議決を受けて起訴された被買収者が、検察官の取調べで不起訴を示唆されて自白調書に署名したことが録音記録で明らかになった際も、検察の捜査方針自体を批判しました。

 河井事件で、取調べの際の受供与者側への「不起訴誘導」が問題化したことが、今回の公選法違反の告発事件について、同様に受供与者の立場にある折田氏に対する取調べにおいて「起訴猶予の可能性」を視野に入れた対応をすることの支障になることが懸念されました。

 そこで、「告発人らも起訴猶予相当との意見を述べている」との事実を明確にしておくことで、捜査機関が、そのことを踏まえて取調べ等を行うことで、本件の事実解明を行いやすくしたいと考えて、その旨の補充書面を提出したものです。

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