安倍元首相殺害事件は、「一つの刑事事件」として真相を見極めるべき

史上最長の在任期間を誇った元首相の突然の死去についての話題で埋め尽くされていますが、この殺人事件の受け止め方、取り上げ方には、疑問な点が多々あります。
郷原信郎 2022.07.09
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このニュースレターでは、世間で話題になった事件・事故、不祥事など、その時々に話題となっている事柄を取り上げて、私独自の視点から分析し、世の中の認識の誤りを解き明かしていきます。メールアドレスを登録していただくと、ニュースレターが毎回お手元に届きます。

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このニュースレターの配信を始めようと準備していたところ、安倍元首相が街頭演説中に銃撃されるという衝撃のニュースが飛び込んできました。

何とか一命をとりとめてもらいたいとの祈りも空しく、昨日夕刻、亡くなられました。

心からご冥福をお祈りします。

史上最長の在任期間を誇った元首相の突然の死去についての話題で埋め尽くされていますが、この殺人事件の受け止め方、取り上げ方には、疑問な点が多々あります。

そこで、ニュースレターの第1回では、安倍元首相殺害事件について、私の思うことを書くことにしたいと思います。

まず、私にとって、安倍晋三元首相がどういう存在だったのか、ということから始めたいと思います。

私は、森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題など、安倍首相をめぐる問題が表面化する度、私独自の視点で、安倍氏を厳しく批判してきました。まさに、私にとって、言論で戦い続けてきた最大の権力者が安倍氏でした。今は、政権の座から離れていますが、いずれまた政権に復帰してくる可能性もあり、今後も、私の「権力との戦い」の相手だと思っていました。まだまだ批判し、戦い続けたかった。それだけに、私にとっても、安倍氏の突然の死去は衝撃であり、言いようのない喪失感を味わっています。

安倍氏を批判してきた私ですら、そういう思いですから、安倍氏の支持者・支援者の人達にとって、突然安倍氏を失った思いは察するに余りあります。

それだけに、様々な反応、様々なリアクションが生じるのは致し方ないものと思います。

しかし、今回の事件の発生直後から、

「言論を暴力で封じ込める行為」
「自由な民主主義体制を破壊する行為」

などの言葉が使われていることには違和感を覚えます。

参議院選挙の投票日の2日前に、その参議院選挙の応援のための街頭演説を行っていた最中に起きた事件であること、それが、選挙に多大な影響を生じさせたことは間違いないありません。しかし、犯罪の動機が、選挙運動の妨害などの政治的目的であったとする根拠は、今のところありません。選挙期間中の街頭演説中の犯行だったことだけで、反抗の政治性や、選挙との関連性を決めつけた見方をすることは、逆に、選挙や政治に不当な影響を与えることになりかねません。

犯行直後から、安倍政権時代の様々な疑惑について、安倍首相が野党やマスコミから批判されてきたことが今回の犯行につながったかのように決めつけ、

「アベガーのせいで安倍元首相が殺された」

などとSNSで拡散している人もいますが、軽率の誹りを免れないと思います。そのような見方は、逆に、本件を政治的目的によるテロであるかのような誤解を生み、模倣犯の発生につながる可能性もあります。

ここで、間違いなく言えることは、今回の安倍氏殺害は、「選挙期間中に選挙の街頭演説中の政治家が被害にあった」という特異性はあっても、あくまで「1件の刑事事件」だということです。被疑者は、今後、刑事訴訟法の手続にしたがって、証拠取集が行われ、起訴され、刑事裁判で判決が言い渡されて処罰されることになる。そして、最終的には、刑事裁判での事実認定によって、この安倍元首相殺害事件というのが、どのような動機・目的で行われた事件だったのかが明らかになるということです。

逮捕された山上徹也容疑者は、警察の取調べに対して、特定の宗教団体の名前を挙げて

「恨みがあった。団体のトップを狙うつもりだった」
「(安倍氏が)団体とつながりがあると思った」
「母親が(この宗教団体の)信者で、多額の寄付をして破産したので、絶対に成敗しないといけないと思っていた」

と供述しているとのことですが(読売)、そうであるとすると、政治的目的はなく、個人的な恨みを動機とする犯行を行うに当たって、それが可能だと考えた現場が、たまたま選挙演説の場だったことになります。

仮に、動機が、「特定の宗教団体に対する恨み」であったとして、その恨みを安倍元首相に向ける理由があったのかどうかは別の問題です。しかし、2021年9月17日に、全国の弁護士300名からなる「全国霊感商法対策弁護士連絡会」が、特定の宗教団体について、

信者の人権を抑圧し、霊感商法による金銭的搾取と家庭の破壊等の深刻な被害をもたらしてきた問題について、国会議員や地方議員が特定の宗教団体やそのフロント組織の集会・式典などに出席し祝辞を述べ、祝電を打つという行為が目立っており、宗教団体に、自分達の活動が社会的に承認されており、問題のない団体であるという「お墨付き」として利用されている

として、安倍晋三衆議院議員宛てに公開抗議文を送付していた事実があり、特定の宗教団体による被害を、安倍元首相への恨みに結び付けることも考えられないわけではありません。

いずれにしても、本件の犯行動機が何なのかは、今後、刑事事件の捜査・公判を慎重に見極めていかなければいけません。

また、2019年7月の参議院議員選挙期間中に、札幌市内の街頭演説において、安倍首相の演説に対して路上等から声を上げた市民らに対し、北海道警察の警察官らが肩や腕などを掴んで移動させたり長時間に亘って追従したりした事件がありましたが、これについて、警察官らによる行為は違法だとして市民らの国家賠償請求の一部を認容した判決が出たことを、本件で安倍元首相の演説の際の警備の支障になったかのような見方もあるようですが、全く的はずれだと思います。

「声を上げて批判すること」と、「物理的に抹殺しようとすること」とは全く次元の異なる問題です。本件の犯行で、この二つを混同するような見方をすることの方が、民主主義に対する重大な脅威になりかねないと思います。

この問題については、引き続き、今後の情報に基づいて、このニュースレターでお伝えしていきます。

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