<福永・郷原訴訟の解説>

代理人弁護士が、この訴訟の内容について解説しています。
郷原信郎 2025.07.13
誰でも

<福永・郷原訴訟の解説>

 福永活也弁護士を本訴原告(反訴被告)、郷原信郎弁護士を本訴被告(反訴原告)とする名誉毀損による損害賠償請求訴訟は、本訴原告(反訴被告)の福永弁護士側(以下、「福永B」)から、本訴訴状、準備書面1~3、本訴被告(反訴原告)の郷原弁護士側(以下、「郷原B」)から、本訴答弁書・反訴訴状、準備書面(1)、(2)が順次提出され、7月9日の第1回口頭弁論期日でそれぞれ陳述されて、結審し、判決は9月17日と指定されました。

 以下、これまでの双方の主張書面のやり取りの中での争点と主張の内容について解説し、若干の論評を行いたいと思います。

1 本件の注目点

本件の最大の注目点は、郷原B側が、反訴として提起した不当訴訟による損害賠償請求が認められるかどうかだと思います。憲法の裁判を受ける権利(31条)との関係もあり、訴訟提起が不法行為とされて損害賠償請求が認められることは極めて稀ですが、福永Bは、不当提訴で反訴されないことを良いことに、これまで一般人に対しても様々な不当訴訟を繰り返してきたことから、郷原Bは、不当提訴による損害賠償請求で勝訴すべく全力で臨んでいます。

福永Bも、本訴提起時は、【ニューヨークで時間が余ったので郷原弁護士を遠隔提訴しました】などと、脳天気なYouTube動画を出していましたが、郷原Bから答弁書とともに反訴状が出て以降は、必死に反訴に対する反論を行っているようで、まさに、反訴請求が認容されるかどうかが最大の注目点です。

それに関して、本件の一つの特異性は、本訴原告の福永B自身が、訴訟に関連することをYouTubeで発言しており、郷原B側が、その発言内容を本件に関連する事実として指摘し証拠提出していることです。これは、不当提訴の不法行為の成否にも影響する事実だと思われます。

2 本訴の争点

 本訴(福永Bから郷原Bに提起した訴訟)について、請求の根拠が多少なりともあるのかどうかは、反訴が認められるかどうかにも大きな影響を与えます。

そこで、まず、福永Bの「訴状」での名誉毀損による不法行為の主張を見てみましょう。

訴状を見ると、「名誉毀損発言を捏造したこと」を不法行為ととらえているようなのですが、福永Bの主張は、「準備書面1」以降で、「発言の歪曲」に変化しています。

「訴状」において、福永Bは、郷原Bが、自身が運営するXのアカウント上で、

「福永弁護士がYouTubeライブにおいて、①郷原弁護士は、過去に何件も刑事告発を行っているが、ほとんどで負けている(以下「投稿①」という。)、②郷原弁護士は、ヤメ検でテレビにしょっちゅう出ており、マスコミの手先のような弁護士。今回も、マスコミの意向に沿って告発して、テレビに出してもらうことが目的だ(以下「投稿②」という。)、と述べたことは明白な誤りであり、名誉毀損にもあたりかねない」

といった投稿(以下「本件投稿」という。)をしたことを捉え、「このような発言は一切していない」と述べ、郷原Bが本件投稿により福永Bの名誉権を侵害したとして不法行為責任に基づく損害賠償請求を求めています。

この訴状の記載からすれば、実際には一切していない発言を、したかのように虚偽の事実を摘示した、つまり「発言の捏造」を行ったという請求原因だというのが、素直な受け止め方だと思います。

そうなると、争点は、「福永Bがそのような発言をしたのか」「郷原Bが、福永Bがしてもいない発言を捏造したのか」に限られることになります。

実際に、郷原Bは、「答弁書」において、訴状記載の事実のうち「このような発言は一切していない」のみを否認し、それ以外は基本的に認め、福永Bが令和6年12月6日に自身のYouTubeライブにおいて、実際に、投稿①及び投稿②と同趣旨の発言を明確にしていることを指摘しました。

ところが、福永Bは、「準備書面1」で、「一切発言していない」との主張については、「言葉遊びに過ぎない。」などと、それ自体にはあまり意味がないように述べて、「結局本件では、福永弁護士の元の発言と郷原弁護士がそれを要約したポストが同一であると評価できるか」が問題である、などとして、不法行為の内容は、郷原Bが投稿①及び投稿②を「捏造した」ことではなく、郷原Bが投稿①及び投稿②により福永Bの発言内容を「歪曲した」ことであるかのような主張をしてきたのです。

訴状で自身が明確に書いたことを「言葉遊び」などで済まされたら、そもそも訴訟は成り立ちません。この「一切発言していない」と主張していることは、後述するように、特に、不当提訴に対する反訴に関して重要な意味を持つことになりますが、捏造にせよ、歪曲にせよ、「投稿①②と実際の福永BのYouTubeライブでの発言が同趣旨かどうか」が決定的に重要であることに変わりはありませんので、その点が、本件の最大の論点だと言えます。

この点に関して、郷原Bが、投稿①と同趣旨のYouTubeライブでの発言と指摘しているのが、以下の福永Bの発言です。

「郷原弁護士が過去に刑事告発したやつも、全然立件もされなかったやつとかも全然あるので。だから今回も、『これは犯罪は成立する!』って言ってるんですけれども、過去にあなた、自信持って刑事告発したやつ空振ってるじゃないですかって話なんですよ、ま、成績から言ったら。だから郷原弁護士の『これは犯罪が成立します!』の彼の見解っていうのはそもそもあてにならないんですよ。それがあてになるんだったら、じゃあ今まで刑事告発空振ったのはじゃあ適当にやってたんですか?って話じゃないですか。今までも彼なりに確信をもって刑事告発してたはずなんで、それでも全然打率高くないですよねって話なんで、それは結果論ですけどね。」

上記発言では、野球用語で、投手と打者との対決で打者にとっては「負け」につながる「空振り」という言葉を使い、「空振っている」と表現し、「成績から言ったら」「全然打率高くない」(プロ野球での打者の一般的な打率は2割台であり、「全然打率高くない」と言えば、一般人は「2割以下」の打率、つまり5件のうち4件は「負け」をイメージする)などの表現を用いており、かかる発言を、「郷原弁護士は、過去に何件も刑事告発を行っているが、ほとんどで負けている」という趣旨と受け取るのは、極めて一般的な理解だと思います。

ところが、福永Bは、投稿①に対応する発言について、

「これは日本語として、本訴被告(反訴原告)が過去に刑事告訴をした案件のうち起訴されていないものがあるという趣旨である。つまり、複数の刑事告訴のうち、1つ以上の案件で起訴に至っていないものがあることを述べているに過ぎない。これは、「立件されなかったやつも全然ある」という発言部分からも、本訴被告(反訴原告)が刑事告発した案件の中で、起訴されていないものもあるという趣旨である」
「過去に行った刑事告発の全てが起訴されているわけではなく、相当期間経過して起訴されていない状態が続いているという真実を述べているに過ぎない。」

などと述べています。

しかし、告発について「空振っている」という言葉は、一般的には、告発したけれど不受理だったとか不起訴だったと受け止めるのが当然であり、「相当期間経過して起訴されていない状態が続いている案件」などと受け取る人はまずいないと思います。

告発状の提出があった場合、捜査機関は、告発状の根拠の有無、形式要件等について慎重に審査して告発受理の可否を検討し、その後、所要の捜査を遂げた上で、(警察への告発の場合は、検察官に送付し)、検察官が起訴不起訴を決するのであり、「相当期間経過して起訴されていない状態が続いている」のは、多くの告発事件についての通常の経過ですから、「空振っている」などと評価されるものでは全くありません。

投稿①が、自分の発言の趣旨と異なる、という福永Bの主張は無理筋だと言えます。

次に、投稿②についてですが、郷原Bが、投稿②と同趣旨のYouTubeライブでの発言と指摘しているのが、以下の福永Bの発言です。

「やっぱり郷原弁護士とかはさ、地上波とかにも出てる先生なので、要はオールドメディアって言われているマスメディア側にわりとこう忖度する立場なんですよ、その方が使ってもらえるし。だから斎藤知事をいかに悪く言うかっていう方向性の、まあ誘導が働いているんですよ、そういう力が。で、いろんなニュースサイトとかも基本的には斎藤さんがおかしいっていう方向の記事ばっか出てるんですけど、そこにコメントしてる弁護士とかもまあ基本的にはたぶんそっちの大手のマスメディアに媚びて、仕事欲しいと思ってるようなやつらばっかりなんですよ。」

この発言の前半部分について、福永Bは準備書面で、

「これは日本語として、本訴被告(反訴原告)の立場として、斎藤知事を悪く言いがちであるという、あくまでも、本訴被告(反訴原告)の立場としそのような状況にあるという一般論を意見論評しただけであって、それは本訴被告(反訴原告)の言動を評価する場合にも慎重に分析すべきであることを世論に促す目的で述べたものである。決して、本訴被告(反訴原告)が実際にどのような目的や動機で斎藤知事を刑事告発したかは述べていない。」

と述べ、この発言の後半部分については、

「本訴被告(反訴原告)とは関係なく、一般論を述べているに過ぎない」

などと述べています。

しかし、福永Bは、前記発言の最後の「大手のマスメディアに媚びて、仕事欲しいと思ってるようなやつらばっかりなんですよ。」に続いて、これを受けた形で、

「ほんとにそらそうで、ま、喧嘩腰になってもしょうがないですけど、本当に現時点での証拠で斎藤さんに犯罪が成立すると判断できると言い切ってるんで、犯罪が成立する、公職選挙法違反が成立するっていうことは、合理的な疑いを差し挟む余地がないくらい有罪であるという状況で初めて刑事訴訟においては犯罪が成立すると認定できるわけなんで。じゃあこれが立件すらされなかったらあなたどうするんですか、責任取れるんですかと。」

などと述べ、改めて「郷原Bが斎藤知事らを告発したこと」を問題としているのであり、福永Bが「一般論」だと述べている発言箇所の前後に明確な「郷原Bに関する発言」が存在している以上、前記投稿②に関わる福永Bの発言が、全体として、郷原Bを念頭に置いた発言であることは明らかです。やはり、投稿②が、自分の発言の趣旨と異なる、という福永Bの主張は無理筋だと言えます。

以上のとおり、郷原Bの投稿①及び投稿②のいずれについても、「発言の捏造」にも「発言の歪曲」にも当たらないことは明らかで、福永Bの本訴請求は認められる余地はないと思います。

3 反訴の争点

次に、注目の不当提訴に対する反訴の方を考えてみます。

ここでは、福永Bの本訴提起が、「事実的、法律的根拠を欠き、提訴者がそのことを知りながら、又は容易にそのことを知り得たのに敢えて訴訟提起をした」と言えるか、それから、「訴訟提起の動機・目的が不当」と言えるかが問題になります。(反訴では、このほかに福永BのYouTubeライブでの発言についての名誉棄損がありますが、これは省略します。)

(1)根拠事実についての認識

前者については、郷原Bの投稿①及び投稿②が名誉毀損だとする本訴請求の根拠が全くないことは、既に述べたとおりですが、問題は、福永Bがどのような検討を行った上で提訴に至ったか、その経緯です。

福永Bの本訴は、YouTubeライブでの自らの発言の有無に関するものです。提訴に当たって、そこでの発言内容を視聴して確認すべきなのは当然です。

仮に、視聴したとすれば、投稿①部分及び投稿②部分に関連する自己の発言として「福永Bの元の発言」があることは容易に認識できたはずで、「そのような発言は一切行っていない」とは到底言えないことも認識できたはずです。

「元の発言」に全く言及することなく、投稿①部分及び投稿②部分のような発言は「一切行っていない」として提訴したのは、YouTubeライブでの発言内容を確認することもなく提訴したか、福永Bが、投稿①部分及び投稿②部分と同趣旨の発言とされる可能性がある「元の発言」を行っていることを認識していながら、敢えて、それに言及せず、「名誉毀損発言を捏造した」として提訴したのか、そのいずれかということになります。

確認しなかったのであれば、訴訟提起に当たって、事実的、法律的根拠に関して当然確認すべきことも確認しなかったということ、確認したのであれば、本訴提起に当たって、当然に明らかにすべき関連事実を秘匿して行った欺瞞的(騙した)提訴だということになります。

福永Bは、訴状に、YouTubeライブでの動画やその起こし等を添付していません。この点について、福永Bは最近行ったニコ生ライブにおいて、

「めんどくさいから出さなかった」
「似たようなことをしゃべっていることは、もちろん知っていて」

などと述べています。あまりに不誠実な提訴であることを端的に示す事実だと言えます。

これに関連してもう一つ看過できない事実があります。

福永Bは、「準備書面2」の最初の方では、

「何度もそのような発言はしていないとX上で指摘してきた」

と述べているのに、同じ準備書面の後の方では、

「以前から要約ポストは元発言とは法的に異なる評価をもたらすものであり、むしろ原告の名誉権侵害になることを指摘しXでの抗議を繰り返しており、最近になって急にこの点を問題にし出したわけではない。」

などと述べていることです。自分の主張に合わせて、過去の自分のX投稿の内容を変えて主張しているので、当時、そのようなX投稿をしていたとは思えませんが、福永Bは、この頃のポストはすべて削除し、確認できないようにしています。

しかし、1点だけ当時の福永Bの削除したX投稿を復元できたものがあり、それによると、令和7年1月1日のX投稿で、

「いまだに弁明もらってないですが、いつ僕が①②の発言をしたんですか。勝手に僕の発言内容をでっち上げて、」

と述べていることがわかりました。

福永Bの主張は、全く「語るに落ちたもの」と言うほかありません。

(2)動機・目的

そして、最後に、「訴訟提起の動機・目的が不当」と言えるかどうかですが、福永Bは、本訴提起直前の令和7年4月28日にアップした自身のYouTube動画【ニューヨークで時間が余ったので、郷原弁護士を遠隔で提訴しました】において、本訴提起について

「基本的には僕に対してどうこうっていうよりは斎藤知事とか折田さんを犯罪者扱いしてるものなので、本当は斎藤知事とか折田さんの代理人として郷原弁護士に訴えることができれば1番良かったんですけども、ま、そこのね、繋がりがあるわけではないので、なので僕に対して何か違法行為になるもので、あのー言ってきてたなって認識があったんでそれを過去のポストをちょっと遡ってみたらですね、こういうのがありました。」

などと述べ、郷原Bらが行った斎藤知事らに対する告発に不満を持っており、本来は斎藤知事らの代理人として訴訟提起をしたかったものの、斎藤知事らとの個人的つながりが無いため、あえて「訴訟提起可能な郷原Bによる福永Bに関するポスト」を探して提訴し、訴訟当事者とすることで、郷原Bに対し有形無形の被害を与えることが目的である旨説明しており、名誉毀損による被害回復という実体的権利の実現ないし紛争解決を主たる目的とするものではないことを自ら述べています。

しかも、福永Bは、既に述べたとおり、本件訴訟での主張立証において不利な状況に追い込まれているためか、書面中で、

「被告は、斎藤知事らを告発しただけでなく、犯罪者扱いしている」
「被告の刑事告発は当初から憶測と過程(「仮定」の間違いと思われる。)に基づく出鱈目なもので、構成要件該当事実を充足する合理的かつ客観的根拠はどこにもなかった」
「斎藤知事らに対する刑事告発については、被告が単に刑事告発をするのみならず、買収罪が成立することは明らかとまで明言していることから、それにもかかわらず起訴されなければ、被告は見通しの悪い無能な弁護士であるとの社会的評価を受ける可能性はある」

などと、郷原Bの斎藤知事らの刑事告発への批判ばかりを繰り返しており、福永Bにとっては、不当提訴に対する反訴に対して、自らの提訴を正当化する「唯一の理屈」が、「刑事告発に伴う表現行為が、被告発人を犯罪者扱いするもので不当だ」ということのように思えます。

そこで、当事者の郷原B自身も作成者となった準備書面2で、郷原Bとしては、福永Bが異常なまでに執着している斎藤知事らに対する刑事告発について、告発以降に、Yahoo!記事等で述べてきたことや、最近のテレビ番組で放映された内容等について言及し、告発が十分な根拠に基づくもので、社会的にも意味のあるものであり、福永Bが述べていることは全くの言いがかりに過ぎないものであることを述べました。

4 結論

以上解説してきたところから、本件訴訟の最大の注目点である反訴請求について、「提訴者の主張した権利または法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのに敢えて訴えを提起した場合」(最高裁昭和63年1月26日判決参照)に該当し、訴えの提起自体が不法行為と評価されるのは明らかだというのが郷原B側代理人の見方です。

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