公明党が“連立離脱の刃”で求める「企業団体献金の受け皿」適正化と「横浜市連会長」「片山さつき氏」問題

自民党が企業団体献金の維持にこだわる理由の一つがここにあります。
郷原信郎 2025.10.10
誰でも

参院選後、1か月半にわたる「石破降ろし」の権力闘争の末、自民党は、「前倒し総裁選」で1年前のデジャブのような総裁選を、マスコミに連日報道させるなどして繰り広げた末、昨年の「高市⇒石破大逆転」の真逆の、「小泉⇒高市大逆転」が、唯一残った派閥の麻生派と旧茂木派主導で実現し、高市早苗氏はめでたく総裁に就任しました。

しかし、自民党タカ派の「高市総裁」に反発した公明党からは、「連立離脱」という強烈な刃を突き付けられ、自公連立でも過半数に届かない少数与党「高市自民党」は、まさに窮地に追い込まれています。

その公明党が「政治とカネ」問題で徹底してこだわっているのが、「企業団体献金を政党本部・都道府県連のような組織的資金管理が可能なものに限定し、現行法が認めている政治家個人などが代表を務める政党支部への企業団体献金を禁止する」という提案を受け入れろという要請です。

30年前の政治改革四法で政党助成金が導入される際、企業団体献金は廃止される方向であったことを考えれば、公明党の要請は最低限のものです。自民党がなぜそれに応じられないのか不思議に思う人も多いのではないでしょうか。政党本部・都道府県連に入った企業団体献金を適切に配分すれば良いだけの話のはずです。

しかし、実際に自民党内で、特に自民党を支える地方組織で大きな発言権を持つ地方のボス議員にとっては、自らが代表を務める政党支部への企業団体献金は、政治権力の見返りとして資金を得る手段として欠かせない場合があります。それは、そのような政治家個人が政党支部を企業団体献金の受け皿としての「個人の財布」として使っているからこそできることです。

今回の総裁選で、自民党員票での高市圧勝に影響したと思える「地方のボス」に対して、公明党の要求を呑んだのでは顔向けができないということでしょう。

東京から最も近い「横浜市」で、自民党横浜市連会長であり、過去に、裏金事件の逆風の中、当時の岸田文雄首相に退陣要求を行うなど、国会議員顔負けの発言力を有する佐藤茂市議の企業団体献金の集金構造は、まさにその典型事例です。

私が、その問題に関心を持つ契機となったのは、2017年9月から2021年5月までコンプライアンス顧問を務めていた横浜市において、今年8月に行われた横浜市長選挙でした。

山下埠頭でのIR事業の是非が最大の争点となった前回の2021年8月の市長選は、新型コロナ感染拡大の最中、「コロナの専門家」「横浜市大医学部教授」を最大限にアピールした山中竹春氏が、同様にIR反対を掲げた多くの候補者の中で、最多の投票を獲得して当選しましたが、選挙戦の最中から、山中氏が、「統計の専門家」であって「コロナの専門家」ではないこと、大学でのパワハラ疑惑、市長選に絡む学長への強要疑惑、経歴詐称疑惑が指摘され、市長就任後も、市議会でも自民党公明党等による追及が行われました。

それから4年、再選をめざす山中氏について、就任当初から問題にされていたパワハラ疑惑が、その後市職員に対して行われていないかなども評価の対象になることに加え、前回市長選後、山中氏を厳しく批判してきた自民党が、市長選に向けてどのような対応を行うかが注目されました。

自民党市議、マスコミ等からの情報によれば、多くの自民党市議が山中市長再選に反対し、新たな候補者を模索しましたが、一方で、自民党横浜市連会長の佐藤茂市議が山中氏再選を強く支持しており、新たな候補者擁立を牽制しているとされていました。そして、佐藤氏は、多くの横浜市議の強い反対を押し切り、横浜市連は山中氏を支援することとなりました。

この佐藤氏は、2019年11月30日、朝日新聞が政治資金規正法の問題点を追及する特集記事のなかで、「政治資金 ザル法の闇」とのタイトル記事で、「国会議員より透明性が低い地方議員の懐具合」における「『ザル法』を地でいく事例」として、国会議員も顔負けの金額を集める「『モンスター級』市議」と評され、明細なく1億4千万円もの支出を行っていることが問題視されたことがありました。しかし、マスコミの追及は続かず、その後も、佐藤氏に対する企業団体献金の額はさらに増加し、佐藤氏の政治資金を巡る不健全な状況は継続していました。

政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正は、「政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため」のものであり(政治資金規正法1条)、政治資金は収支の公開に加えて、公開された内容について、その監視と批判の材料が提供されることで、はじめて政治資金規正法の目的が達せられるものです。

自民党横浜市連の会長として、横浜市長選挙での自民党の支持候補の選定にも極めて大きな影響力を有する佐藤氏の政治資金収支が上記のとおり極めて特異であることについて、収支の推移の詳細と、寄附企業の事業の実態、横浜市の行政との関連性等についての事実が明らかにされることは、有権者にとって重要な事実だと言えました。 

そこで、政治資金収支報告書で公表されている佐藤氏の政治資金の収支と寄附企業の実態、横浜市の行政との関連性等について、独自の調査を行い、可能な範囲で公表することとしました。

同調査は、私が代表を務める「日本に法と正義を取り戻す会」の政治資金調査チームにおいて調査を行ったものであり、同会ホームページにその結果を公表しました。そこで明らかにしているのは、佐藤氏をめぐる「驚異の政治資金」の実態です。詳細は、公表している調査報告書を参照して頂きたいと思います。

佐藤氏には、自民党横浜市旭区第二支部(以下、「旭区第二支部」)、佐藤後援会、観光振興研究会のほか、新都市構想懇話会、山手政経懇話会(旧佐藤茂を育てる会)といった、代表を務める政治団体が多数あり、2023年(令和5年)度の政治資金収支報告書によると、旭区第二支部には、総額で9113万円、その内訳は、企業団体からの寄附が総額7838万円、個人からの寄附が総額1275万円、企業団体からの寄附のうち年間総額500万円を超えるものが5社、個人献金の最高額は432万円です。また、2014年から2023年までの直近10年間で見ると、寄附総額は6億3千万円を超え、そのうち企業や団体からの寄附が総額5億円以上で、個人献金の総額は約1億3千万円です。

2023年の国会議員の関連政治団体の収入総額の平均は、政治資金収支報告書データベースの集計によれば、3594万円となっています。しかし佐藤氏は、地方議員にも関わらず年間平均で6千万円を超えており、国会議員の平均を大きく超える資金を集めています。 

一方、各政治団体の政治資金収支報告書によれば、旭区第二支部の支出額(10年間で約6億6千万円)のほとんどは新都市構想懇話会、山手政経懇話会(旧佐藤茂を育てる会)、観光振興研究会、佐藤茂後援会といった佐藤氏が代表となっている4団体および佐藤氏個人への献金に支出されており、その資金の半分弱は、収支報告書上は「翌年度への繰越」として各団体に残っていることになっていますが、残り半分以上の資金のほとんどは、「組織対策費」など、明細のない(一件(数回にわたる場合は合計が)5万円以下であれば内訳の記載は不要である)不透明な形で支出されています。なお、2023年末時点での上記4団体の「翌年度への繰越額」の合計は約3億2千万円です。

また、旭区第二支部への企業団体からの寄附のほとんどは、比較的小規模企業によるものであり、実質的に同一の人物が代表者或いは経営を支配していると思える複数の企業からの寄附が多く見受けられます。

佐藤氏が自民党の横浜市議会議員の中で極めて有力な政治家であり、市長選挙等における影響力も極めて強いことを考えれば、上記のような佐藤氏をめぐる政治資金の収支について、いかなる事業実態の企業から、何故にこのように多額の寄附が行われているのか、その背景に、寄附企業と横浜市の行政との関係性、それに対する佐藤氏の影響力があるのか、などの点は、横浜市政の現状を市民が知る上でも看過できない重要な事実です。

そこで、旭区第二支部に多くの寄附を行っている企業団体の事業と横浜市の行政との関係を見ると、産業廃棄物処理や運搬に関する資源循環局、社会福祉法人の監督に関する健康福祉局との関係などがあります。また、佐藤氏は、自ら社会福祉法人恵泉会の代表(理事長は2018年までで、現在登記上は理事長ではなく非常勤理事ですが、実権を持っており、本人も「代表」と名乗っているため、代表と表記)を務めており、旭区を拠点に、横浜市内にあゆみ保育園を複数経営しています。

一方、佐藤氏は、上記事業に関連する横浜市議会の常任委員会の委員も務めています(環境創造・資源循環委員会は2006年および2010年度、健康福祉・医療委員会は2014年度以降ほぼ毎年度で現職)。

このような関係の下で、佐藤氏の側から直接あるいは間接に市の当局に対して何らかの要求が行われ、その見返りとして多くの企業から多額の献金が行われている可能性は否定できません。

本来、政治資金の寄附は、支持する政治家、政党の政治活動を支援するために行われるものです。国会議員とは異なり、地方議員の場合、秘書の人件費、事務所費等にかかる費用は僅少であるはずなのに、国会平均を遥かに上回る多額の政治資金の寄附を受け、大部分が不透明な支出や「翌年への繰越し」とされているのは、極めて特異な政治資金の収支です。しかも、旭区第二支部への企業団体献金には、同一人物が経営又は支配する複数の企業による寄附を合算すると、資本金10億円未満の企業の寄附額の上限750万円(年間総額)を超える寄附が行われている例も複数あり、このような多額かつ不透明な寄附が、佐藤氏側からの要請によることなく企業団体側から自主的に行われたり、佐藤氏が認識することなく一方的に行われたりすることは極めて考えにくいでしょう。

仮に佐藤氏側が寄附を要請し、それが単に、各政治団体に「翌年への繰越し」を蓄積しておくだけの目的だとすれば、それは、「政治資金の寄附」という名目の、単なる「蓄財」ということになります(将来、相続税を課税することなく、相続人に政治団体の資金を継承させることが可能。)。

もっとも、政治資金収支報告書における「翌年への繰越し」については、残高証明が義務づけられるものではないので、各年末の実際の政治団体の口座の残高は、同報告書に記載された翌年への繰越しの金額より大幅に少ない可能性もあります。もし、そうであるとすれば、旭区第二支部への寄附は、佐藤氏が代表を務める政治団体を経由して「裏金化」しているということであり、その使途に重大な疑惑が生じることになります。

実際に何に使われているのかは全く闇の中ですが、一つだけ具体的に明らかになっている佐藤氏個人から現職国会議員への寄附の事実があります。

それは、自民党の環境族の有力議員である片山さつき氏に、佐藤氏個人で、2023年11月11日付けで、「会社役員」の肩書の個人名義で片山氏が代表を務める自由民主党東京都参議院比例区第二十五支部に100万円の寄附を行っている事実です(横浜市議会議員からの寄附であることも収支報告書からはわかりません。)。

佐藤氏と片山氏の関係性について、互いに自民党の有力議員である、ということ以上に直接結びつける明確なものはありません。

ただ、佐藤氏への有力な献金企業に環境関連のX社とY社があり、近時、毎年寄附を行っていて、いずれもA氏が代表取締役社長を務めています。

A氏は、2023年に片山氏とのオンライン勉強会に出席しており、また、環境に関する新法の制定に向けて参考人として意見陳述するなど、片山氏と接点があります。

さらに、A氏は企業活動の他、環境関連の公益社団法人の会長や理事も務めるなど、政治活動もかなり積極的に行っており、環境関連の政治連盟に以前から関わり、近時は理事長として、環境大臣をはじめ、様々な政界の人物に対し、業界の様々な要望を伝え、陳情を行っています。

一方で片山氏は、自民党で環境部会長を務め、その経緯で産業・資源循環議員連盟の発足人となり、現在では同連盟の幹事長を務める立場にあります。同連盟は、A氏が関わる政治連盟と大臣への要望で連携するなど、密接な関係が見受けられます。

佐藤氏とA氏の関係、片山氏とA氏の関係は、それ自体が単体で問題となるようなものではありませんが、前記のように、地方議員への多額の献金の必要性の低さも考慮したうえで三者の関係性を全体としてみると、佐藤氏から片山氏への個人名義での100万円の寄附が、地方の有力政治家が自治体行政などへの有形無形の影響力への見返りとして得た企業団体献金の、国政政治家への還流の一端である可能性があります。

また、前記のように、佐藤氏は多額の資金を「裏金化」している疑惑もあります。

仮にそうだとすれば、公明党の提案で前提とされている「企業団体献金は公正かつ適正に政党本部に提供され、それが都道府県連組織などを通じて党所属議員に適切に配分される」という政治資金の流れとは真逆の状況だということになります。

この自民党横浜市連会長の佐藤市議の事例を見ても、公明党が、連立離脱の刃とともに自民党に突き付けている「企業団体献金の適正化」の要求は、極めて根本的かつ本質的なものであり、自民党はこれに対して相当な覚悟を持って望まなければ、一層深刻な事態に追い込まれることは間違いありません。

実は、私がこのような自民党の再生が図れる総裁として期待していたのが石破茂氏でした。昨年の総裁選で高市氏に逆転勝利した後ろ盾となったのが菅義偉氏、岸田文雄氏などの元首相の自民党重鎮ということで、一年程度は党内で基盤を固め、本当の意味で石破カラーが出せるのはこれからだと思っていました。

派閥政治資金パーティーをめぐる裏金問題の本質をはじめ、横浜市の実情など政治資金をめぐる問題については必要に応じて石破氏と親しいジャーナリストを通じて情報提供していました。

しかし、参院選での自民党敗北を機に、旧勢力の巻き返しの「石破降ろし」に読売新聞等が加担し、結局、総裁の座から引きずり降ろされることになりました。それによって、自民党は旧来の金権体質からの脱却の「最後のチャンス」を失ったように思えます。

今、自民党が置かれている状況は、まさにその金権腐敗体質が招いた「自業自得」そのものなのです。

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