立花孝志氏・名誉棄損逮捕について

これまでの経過をお話しします。
郷原信郎 2025.11.10
誰でも

故竹内英明元兵庫県議会議員に対する名誉棄損(生存中の名誉棄損・死者への名誉棄損)の件で、そのご遺族の竹内夫人の代理人として、立花孝志氏を被告訴人とする告訴状を、本年6月兵庫県警察本部に提出し、受理されていましたが、昨日(11月9日)、立花氏が兵庫県警本部に名誉棄損罪(「死者の名誉毀損」を含む)で逮捕されたと報じられました。

昨年11月の兵庫県知事選挙の際、立花氏の発言を契機として、竹内英明氏に対してSNS上等で様々な誹謗中傷が行われたことが、同氏の県議辞職、そして今年1月18日に死亡されるに至ったことの大きな原因になったものです。

しかも、立花氏は、英明氏の死亡直後にも「竹内さんは警察で任意聴取を受けており、翌日逮捕の予定であったことを苦にして自殺した」などの全くの虚偽の発言を行って死者の尊厳を傷つけ、名誉を著しく侵害する発言をSNS上で行っており、私は、そのような立花氏の言動について、当初から強烈な違和感を持ち、立花氏を批判するX投稿も行っていました。

1月20日、当時の村井県警本部長が兵庫県議会警察常任委員会で、竹内氏の任意取調べも逮捕の予定も全くなかったことを明言したことを受け、立花氏がYouTubeで

「竹内県議会議員が自ら命を絶った理由が、警察の逮捕が近づいていて、それを苦に命を絶ったことは間違いでした。これについては訂正させていただきます。そして謝罪させていただきます」

と発言したものの、その後も、

「竹内氏は、警察の捜査を受けるのが当然だった。警察が捜査していなかったとすれば警察の怠慢」
「メディアは相変わらず誹謗中傷が原因とか。誹謗中傷で何で死ぬねんって話じゃないですか」

などと述べて、被害者の自殺が被告訴人の誹謗中傷によるものであることを否定し、被害者が、警察の捜査の対象とされるべき犯罪行為を行っていたかのような「死者に対する名誉毀損行為」を繰り返していました。

私は、1月27日に、【立花氏の竹内元県議に対する「死者の名誉毀損罪」の成否を考える】と題するレターで、これまで、「虚偽の事実の摘示」が要件とされていることから、刑事立件・処罰のハードルが高く、過去に処罰例がない「死者の名誉毀損罪」について解説し、従来は、「歴史上の事実についての論評」としての性格が重視されてきた「死者の名誉毀損」も、被名誉毀損者の死亡直後、死者への追慕の感情を踏みにじる行為に対しては、遺族の告訴が処罰条件とされていることからも処罰が正当化されるとの観点から、「虚偽の事実の摘示」について「確定的故意」がなくても、「未必的故意」でも犯罪が成立すると解すべきとの見解を述べました。

私としては、竹内元県議の御遺族に、同記事の見解を踏まえて、是非、「死者の名誉毀損」での告訴をして頂きたいと考え、御遺族と連絡をとる手立てを探していたところ、陸山会事件の検察捜査をめぐる「虚偽捜査報告書作成事件」に関してお付き合いがあり、【検察崩壊 失われた正義】との拙著で対談を行ったこともある石川知裕元衆議院議員が、竹内元県議と同級生の御夫人の大学の1年先輩で、親しい間柄であることがわかり、石川議員に久々に電話で連絡し、竹内元県議に対する死者の名誉毀損について御遺族の告訴の意向を確認することができないか相談しました。

石川氏は、私と同じ思いで、

「英明の無念を晴らしたいと思っている」

と言ってくれましたが、竹内夫人は、今は突然夫を亡くしたことで大変な状況にあり、とても刑事告訴のことを考えらえるような状況ではないので、少しでもそのようなことが考えられる状況になったら話をしてみるので待ってほしいとのことでした。

4月に入り、石川氏から連絡があり、竹内夫人も少し落ち着いたようで、そろそろ名誉毀損での告訴のことも考えたいと言っているとのことでしたが、その時点では、告訴を躊躇されているようでした。

この頃から、私個人としては、死者の名誉毀損の刑事立件をめざしたいという気持もあったものの、立花氏の一連の言動に対して表立った行動を起こすことで遺族の側に批判が向き攻撃されることへの懸念もあると思える竹内夫人に、過去に処罰例がない罪名での告訴を勧めることは難しいと思えたので、まずは、竹内元県議の生前における名誉毀損の事実を告訴の対象にできないかと考えていました。故人が生前に名誉毀損をされていた事実があれば、遺族にも告訴の権利があります。

ちょうどそうした時期が私の目にとまったのが、今年2月に放映されたTBSの報道特集でこの問題が取り上げられ、竹内元県議の死亡直後の発言についての立花氏のインタビューが行われたのですが、立花氏の側がそのインタビュー全体を撮影して自分のYouTubeチャンネルで公開していた動画でした。

その中で、立花氏は、

「竹内元県議が警察の取調べを受けている話は、確かな情報があったわけではないので、亡くなられる前は言わなかった。亡くなられたから、自分は法律に詳しいので、嘘であっても罪になることはないとわかっているからそういう話をした」

と自慢げに話していました。そのような立花氏の発言に関して、SNSで、「YouTubeで立花氏は竹内氏の生前にも同じようなことを言っている」と指摘している動画もみつかりました。

私は、何とか、その竹内元県議の生前における「立花発言」を発見しようと、知人のマスコミ関係者にも協力を求め、その結果みつかったのが、昨年12月13日、立候補していた泉大津市長選挙の街頭演説でした。

「何も言わずに去っていった竹内県議はめっちゃやばいね。警察の取り調べを受けているのは間違いない。複数の人から聞いていて、彼が取り調べを受けているのは、亡くなった元県民局長の奥さんの遺書を捏造したのではないかと。あのメールのね。そういう疑いまで出ている、少なくともああいう怪文書をばら撒いて受け取っている。竹内元県議ですから、これからも警察の捜査が進んでいくんでしょう。」

と発言していました。

私は、この立花氏の発言は、間違いなく名誉棄損罪に問えると考え、竹内夫人に告訴の話をしてみることにし、5月14日に、初めて竹内夫人とオンラインでお話しし、名誉毀損の告訴について説明しました。その際、名誉毀損発言の日が、昨年の12月13日なので、告訴期限が「その事実を知った日から6か月」とされており、最短で、6月13日には告訴期間が徒過してしまうこともお話ししました。

竹内夫人は、その後、悩みに悩んだ末に、最終的に告訴を決断されるに至りました。

「夫の無念を晴らすためには今、決断しないと、後々後悔することになるかもしれない」

という思いが最も大きな要因だったようです。

竹内夫人が告訴の決断をされたことを受け、その後、代理人弁護士として兵庫県警とも連絡調整を重ね、12月13日の街頭演説と翌日の街頭演説の発言を名誉毀損の告訴事実として告訴することにしました。このときは、死者の名誉毀損については、立花氏の発言の悪質性を示す犯行後の情状事実にとどめることにして、告訴状に記載し、6月11日に告訴状を兵庫県警に提出しました。

その後、死者の名誉棄損は起訴のハードルは高いものの、英明氏の死亡直後に、「明らかに虚偽の事実」をSNS上等で流布して、ご遺族の死者に対する敬慕の念を著しく害した行為であること、発言内容が虚偽であったことが県議会での県警本部長の答弁等によって客観的に明らかになっていることなど、極めて特異な事案であることから、追加で告訴をすれえば捜査機関も死者の名誉棄損罪の立件の可否について積極的に検討してくれるのではないかと考え、死者の名誉毀損についての追加告訴状を作成し、6月27日に兵庫県警に提出しました。

あいにく、その頃から、私は体調不良に見舞われ、7月上旬から悪性リンパ腫で入院、その後、2か月近く入院することになり、弁護士としての活動ができない状況となりました。そこで、告訴後の警察等との対応など、竹内夫人の代理人としての対応を、かねてから立花氏と訴訟等で戦ってきた石森雄一郎弁護士に委ねることとしました。

その後、同告訴事件の警察捜査の進展や、報道各社の動向を受け、8月8日に告訴人の竹内夫人も出席して記者会見も行い、告訴が公表されました。私は入院中だったため、会見は、石森弁護士がすべてセットして竹内夫人の代理人として対応してくれました。

今回、立花氏の逮捕の事実に「死者の名誉毀損罪」が含まれていることがわかりました。兵庫県警から事前相談を受ける神戸地検も検討した上で、同罪での逮捕に至ったものと考えられます。

当初から、私が竹内元県議の死亡直後の立花氏の発言に強い違和感を持ち、何とかそれを処罰できないか、その後、検討を重ね、竹内夫人の告訴に向けて動いたことが、神戸地検の担当検事にも問題意識として伝わったように思います。

もちろん、まだ被疑者の逮捕という手続がとられたという段階であり、刑事弁護に携わる立場として、推定無罪の原則は尊重しなければならないことは言うまでもありませんが、発言の内容という客観事実は明らであり、死者の名誉毀損罪の最も悪質なケースであることも疑いのないところですので、徹底した事実解明の上、厳正な処分を望みたいと思います。

なお、私が立花氏の「死者の名誉毀損」に対して抱いた「許せない」との思いを、自らの思いを込めて竹内夫人に伝えてくれた石川知裕氏は、今年9月6日直腸癌のために逝去されました。

「立花氏逮捕」の報に、天国で安堵してくれていることと思います。

謹んでご冥福をお祈り致します。

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