丸川珠代参議院議員に公開質問状を送付

自民党裏金事件について、新たな動きです。
郷原信郎 2024.09.09
誰でも

令和6年3月28日、上脇博之神戸学院大学教授と私を告発人、参議院議員丸川珠代氏らを被告発人とする政治資金規正法22条の2(公職の候補者の政治活動に関する寄附の禁止)等違反についての告発状を、東京地方検察庁に提出しました。

この告発については、郷原のYahoo!ニュース エキスパートの記事【「この愚か者めが!」丸川珠代議員への「政治家個人宛寄附」告発の“重大な意味”】でも詳細に述べているように、犯罪の嫌疑について確信をもって行ったものです。

その後、問い合わせに対して、担当検察官からは、「現在捜査中」「受理手続は刑事処分前に行う予定」との説明があり、公訴時効の関係もあるので速やかに受理、処分を行うことを求めていたのですが、同年8月29日付けで不起訴になったとの報道があり、不起訴処分通知が届きました。検察官に不起訴理由の開示を求めたところ、「嫌疑なし」との不起訴理由告知書が届きました。

告発状提出後、一部事実については公訴時効も迫る中で、5か月にもわたって捜査が行われたのに、何故に「嫌疑なし」で不起訴なのか、全く納得できませんので、検察審査会への審査申立を行うため準備中ですが、それに先立って、丸川氏に公開質問状を送付しました。(質問状は、郷原総合コンプライアンス法律事務所ホームページに掲載⇒【自民党裏金事件について】)。

検察官が、告発状を受領後、告発事実について嫌疑があると考えたからこそ、捜査を行ったはずです(東京地検では、告発状について正式受理の手続をしないまま、捜査を先行させ、最終処分の直前に受理して刑事処分をするとのことです。)。結果的に「嫌疑なし」で不起訴にしたのですが、その検察の判断が仮に正しいとすれば、我々が告発状で示した政治資金規正法違反の嫌疑の根拠について、丸川氏側で、よほど納得ができる説明が行われたからだと推測できます。そこで、我々としては、公開質問状で、その点について丸川氏に説明を求め、それを見極めた上で、検察審査会への申立について最終判断しようと考えたものです。質問状への回答で、丸川氏が納得できる説明を行った場合は、検察審査会への申立は行わないことにします。

丸川氏が我々の疑いについて十分な説明を行い、それによって嫌疑が晴れたのであれば、丸川氏はもはや刑事責任を問われることはないのですから、説明を拒む理由はなく、なおかつ国会議員として国民に説明すべき重大な義務があります。

万が一、丸川氏側からの回答がなかった場合には「説明できない」ということで犯罪の嫌疑が一層高まるだけでなく、丸川氏と検察当局との間に何らかの表に出せない事情があった疑いすら生じることになりますので、我々は、ただちに、検察審査会に申立てを行うことになります。

「自民党派閥政治資金パーティー裏金問題」について、検察当局は、全国からの応援検事を動員し、かつてない大規模捜査態勢で行ってきましたが、自民党の調査結果等によると、2018年から2022年までの5年間で派閥から裏金(収支報告書に記載しない前提で派閥から所属議員に供与された金)を受領した国会議員は80人を上回るとされる一方、検察が1月に一斉に行った刑事処分において、正式起訴された国会議員は、裏金の金額4826万円の池田佳隆衆議院議員と5154万円の大野泰正参議院議員の2名のみであり、その他に4355万円の谷川弥一元衆院議員を略式起訴しただけで、政治団体の会計責任者ら7名が起訴(略式起訴を含む)された以外は、刑事立件すらされていません。そして、正式起訴された2名も、全面的に争う姿勢を示し、いまだ公判も始まっておらず、有罪となるか否かもわかりません。また、「裏金議員」達は、領収書のやり取りもなく、勝手に使える金を手にしていながら、所得税を納税したという話もありません。

そうした中で、私と上脇教授は、かねてから、検察当局が、「裏金」を受領した議員について、政治団体の政治資金収支報告書の不記載罪ととらえて捜査処分を行っていることを疑問視してきました。

不記載罪の場合、「収支報告書を作成・提出する行為」が犯罪になるのであり、「裏金」の授受自体が犯罪になるのではありません。どの政治団体宛への寄附なのかが特定できなければ、収支報告書の不記載・虚偽記入等の犯罪事実が成立しません。

特に、国会議員の場合、議員個人の資金管理団体のほかに、自身が代表を務める政党支部があり、そのほかにも複数の関係政治団体があるのが一般的です。裏金というのは、領収書のやり取りもせず、どの団体の収支報告書にも記載しないことを前提にやりとりするので、一般的に、それが当該議員に関連する複数の政治団体、政党支部のうち、どこに帰属するものなのかを特定することは容易ではありません。

政治家側への供与が「特定の政治団体宛ての寄附」と認められるためには、当事者間での寄附の宛先について明示的或いは暗黙の「意思の合致」が必要です。政治団体名義の領収書が授受されていない場合は、供述によって、どの政治団体に帰属する寄附なのかを認定することになります。

検察官の捜査において、被疑者側が捜査に協力し、派閥側から供与されたのが、どの政治団体、政党支部への寄附なのかを特定する供述が得られるとか、被疑者側で寄附について収支報告書の訂正を行ったりすれば、それによって、どの政治団体の収支報告書に記載すべきだったかを特定する証拠が一応あることになり、収支報告書の不記載・虚偽記入罪で立件もあり得ます。しかし、政治家側がこのような協力をするのは、その方が有利だと判断するからであり、それによって政治資金規正法違反で起訴され、公民権停止で失職するのであれば、普通、協力はしないはずです。

今回の「派閥政治資金パーティー裏金事件」に関して、検察の捜査が事実上終結した後に、派閥の政治団体の政治資金収支報告書について、所属議員の資金管理団体又は政党支部宛の寄附が不記載だったとして訂正を行い、所属議員側も、一斉に派閥側の訂正と符合する内容の訂正を行っていますが、派閥側の会計責任者等は起訴されたものの、所属議員や議員側の会計責任者は刑事立件すらされず、立件されても不起訴になっています。

しかも、このような政治資金収支報告書の訂正が行われれば、「裏金」は、議員個人ではなく、政治団体に帰属していたことになり、所得税は払わなくてよいことになります。

今回の「裏金問題」で所属議員側が収支報告書の訂正に応じたのは、「訂正を行えば刑事立件しない」「立件しても起訴猶予ないし嫌疑不十分で不起訴にする」との検察官との明示或いは黙示の「約束」があり、税金も払わなくて済むと思ったからだと考えるのが合理的です。

衆議院議員を辞職した谷川弥一氏などは、罰金100万円の略式命令を受け、全く反省の素振りもない記者会見を行い、許し難いことに、4355万円の裏金は谷川氏の懐に入ったままになっています。

私と上脇教授は、このような検察の捜査処分は根本的に間違っていると考え、それを指摘してきました。裏金を受領した国会議員に対しては、政治資金規正法22条の2の「政治家個人宛の寄附」違反が適用できるよう徹底した捜査を行うべきだと主張してきました。

この「政治家個人宛の寄附」が認められると、法定刑は禁錮1年以下・罰金50万円以下と比較的軽いものの、起訴されれば、罰金刑でも公民権停止となる上、28条の2により「違反行為により受けた寄附に係る財産上の利益」は全額没収となり国庫に帰属します。裏金について税金を払う以上に、「裏金議員」にとっては厳しいものです。

私と上脇教授は、慎重に検討を重ねた上、丸川参議院議員が「中抜き」の方法で清和政策研究会から受け取った「裏金」が、「政治家個人宛の寄附」の供与を受けた典型例だと判断し、告発を行ったものです。「派閥からノルマ超過分は持ってこなくていいと言われた。資金は(自分の)口座で管理していた」と述べていることなどがその根拠です。ところが、信じ難いことに、検察官は、「嫌疑なし」で不起訴にしたのです。

今回、不起訴となった丸川氏が、どのような事項についてどのように説明するのか、そして、その説明をどう評価するのかは、自民党総裁選挙、立憲民主党代表選挙などで争点とされている「裏金議員の説明責任」にもかかわる問題です。

そこで、今回の公開質問状は、丸川氏の事務所のほか、所属する参議院の議長のほか、マスコミ各社、自民党本部、立憲民主党本部等にも参考送付することにしました。

13日の期限までに、丸川氏側から、十分な説明が行われることを期待したいと思います。

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