東京五輪談合、事件の構図と法律構成を考える
先週金曜日(11月25日)に東京地検特捜部と公正取引委員会が合同で、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会発注の「テスト大会の計画立案業務」の入札で談合が行われたということで、強制捜査に着手しました。
「電通」とイベント会社の「セレスポ」2つの企業の本社と、組織委員会の幹部の自宅を捜索したと報じられています。
この事件の、まさに「本筋」に、検察が公正取引委員会とともに踏み込んできた、と大変期待をしています。
かねてから、陸山会事件以降の様々な検察が手掛けた事件や、検察捜査を批判してきた私ですが、今回は、検察権力が「電通」という巨大企業の支配構造に斬り込んでくれるのではないか、「検察の権力」と「電通の権力」がぶつかり合うのではないかということを期待して、高橋治之氏が逮捕されて以降、問題点を指摘しつつも、検察の捜査、特捜部の捜査を応援してきました。
4回目の高橋治之氏の逮捕・起訴で、事件が一段落をしたなどと報じられ、東京地検特捜部の捜査は、これで終わってしまうような話もあり、しかも朝日新聞の記事などによると、
「特捜部は電通に協力をさせて電通と良好な関係を築いて、高橋治之氏と贈賄側を摘発した」
というようなことが書かれていました。
もし仮にそういうやり方で捜査が行われ、しかもこれで終わりということであれば、それまで捜査を応援してきたのは何だったのか、と思いましたが、捜査というのは密かに何が行われているか分からないので、軽々には判断できないと思い、その後の動きを見守っていました。
そうしたところ、今回、「テスト大会の計画立案業務」について談合事件の捜査に特捜部と公取委が着手したと報じられたのです。この受注業者がそのままテスト大会の「運営業務」とか、「本大会の運営業務」を受注しているということで、まさにテスト大会の談合が一連の大会の運営業務の全体の配分に繋がっていたのではないかと報じられています。
これは東京五輪を巡る構造的な問題にも関わる非常に大きな事件であり、「独占禁止法違反の刑事事件」という面でも、まさに歴史に残る事件ではないかと思います。
ただ、通常の独禁法違反事件・談合事件とは異なる構図があり、様々な法律問題をクリアしていかなければいけない、大変な捜査が予想されます。
独禁法のどの違反か
東京五輪汚職事件は、高橋治之氏を収賄側とする事件の過程でいろいろなことが報じられてきましたが、組織委員会には多くの「電通」の職員が出向していて、組織委員会の実務は殆ど電通に仕切られているというようなことが言われてきました。
そうだとすると、今回のテスト大会の発注業務も、電通が事実上仕切っていた、支配していたのではないかという疑いが出てきます。
一方で、電通は「受注業者側」でもあるわけです。このような発注側と受注側の両方を支配している可能性があるとすると、これは一体どのように独占禁止法違反事件として構成されるべき事件なのか、微妙な問題があります。
当面の被疑事実・容疑事実は「不当な取引制限」と報じられています。競争事業者間で「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為です。事業者間で、各テスト大会の入札でそれぞれ受注を配分する合意が行われていたのではないか、ということで、一般的な競争事業者間の合意によって競争を制限していたとすると、「不当な取引制限」(独占禁止法3条後段)ということになります。
しかし、3条にはもうひとつ、前段の「私的独占」もあります。「競争事業者を支配したり、あるいは排除したりして一定の取引分野の競争を実質的に制限」すると、私的独占に当たります。
「電通」が発注者側の業務を事実上支配し、受注者側も支配しているとすると、この分野の取引、この市場を全体として支配していたのではないか、という疑いが生じてきます。
そうであれば、「不当な取引制限」という構成のほかに、「私的独占」という構成も想定されることになります。
この両者の関係はどうなっていくのか、など、まず独占禁止法の何条のどういう違反が成立するのか、ということ自体についても、検討すべき点があります。
従来の官製談合との違い
そして、また、電通が支配していたかどうかは別としても、「発注者」が受注者側の談合に関わったり、それを容易にする行為というのは、「官製談合防止法」に違反する「入札の公正を害すべき行為」になります。しかし、先程述べたような組織委員会の特殊な組織の構図からすると、本件に「官製談合防止法違反」の適用できるのか、というところも問題になってくるのではないかと思います。
従前の「官製談合」は、「発注者側が受注者間の談合を容認・黙認し、受注者を指名する」というような構図が一般的です。ところが、東京五輪談合では、電通やセレスポから組織委への出向者がテスト大会の担当をしており、発注側と受注側が一体となって受注調整をした疑いがあるとされており、従前の「官製談合」とは様相を異にしているように思われます。
そこでは、組織委員会の「発注」が、一体どのような性格のもので、組織委員会はどのように意思決定をしているのかが問題になります。
いずれにしても、この事件、まだまだいろいろな問題点の検討を行いながら徹底した事実解明が行われていくことになると思います。今後の特捜部の捜査、公正取引委員会の犯則調査の動向にしっかり注目していきたいと思います。
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