「競争の番人」原作小説、ここが間違ってる!

 原作小説は間違いだらけ!フジテレビ新ドラマ「競争の番人」に要注意
郷原信郎 2022.07.11
誰でも

このニュースレターでは、世間で話題になった事件・事故、不祥事などその時々に話題となっている事柄を取り上げて、私独自の視点から分析したものを書いてみたいと思っています。どんどん発信していきますので、是非このボタンから登録してお読みください。↓

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 今回は、一つの小説と、それを原作とするドラマについて取り上げ、公正取引委員会という一つの行政機関について、世の中に大きな誤解が生じかねない!という点を指摘することとしたいと思います。

 それは、今年5月に公刊された、新川帆立氏の「競争の番人」と題する小説と、それを原作とするフジテレビの同名のテレビドラマです(坂口健太郎、杏、小池栄子ら出演:初回7月11日月曜日午後9時~)。

 「競争の番人」とは、公正取引委員会のことです。

 公正取引委員会が、カルテル・談合等を取り締まる独占禁止法の専門機関だということは、概ね認識されていると思いますが、その組織の実態や、具体的にどのような活動を行っているのかは殆ど知られていません。この小説は、公正取引委員会事務総局に所属する審査官が、独占禁止法違反を審査するお話です。公正取引委員会の審査官の活動の現場が、小説やドラマで取り上げられるというのは、初めてのことです。

 公正取引委員会・独占禁止法との関わりでは、私は、検事時代の1990年から93年まで、公正取引委員会に出向し、その後も、独占禁止法を専門分野としてきました。

 また、小説という意味では、自分自身が東京地検特捜部で関わった事件を題材として、特捜検察と司法記者の癒着を描いた【司法記者】という推理小説をペンネームで2011年に公刊し、【司法記者】が2014年にWOWOWのドラマWシリーズ「トクソウ」でドラマ化された際には、監修も行いました。

 それだけに、この「競争の番人」が、いったい、どのようなドラマになるのだろうと、関心を持ち、早速、小説を購入して読んでみました。

 作者の新川帆立氏は、2020年の著書『元彼の遺言状』が同じフジテレビでドラマ化されたこともあり、この「競争の番人」も、ドラマ化を意識して書かれているように思えます。

 問題はその内容ですが、実際の公正取引委員会での独占禁止法違反事件の審査活動の実情とは凡そかけ離れたもので、リアリティーという面では、なんとも言いようのないものとなっています。仮にこの小説通りの事実があったとすれば、「違法調査」と言わざるを得ないような話まで出てきます。

 「あくまでフィクションであり、エンターテインメントとして楽しめるストーリーであれば良い」ということで書かれたのかもしれませんが、世の中にその実態が殆ど知られていない「公正取引委員会」についての小説がドラマ化されることの影響は大きいと思います。ドラマの視聴者に、公正取引委員会の審査活動の実態がドラマのように認識されることは避けられないでしょう。

 ドラマの放映はこれから開始されますから、実際には、ドラマの中で、原作がどれだけ修正されているかはわかりません。別の法律家による適切な監修が行われて、問題がある部分は修正されているかもしれないと期待します。

 このニュースレターでは、原作の中で、リアリティーに問題がある部分、ストーリーの中の「違法調査」に当たる可能性がある部分等について予め問題を指摘した上で、ドラマの内容に注目したいと思います。

 小説の主人公は、「白熊」という女性審査官と、「小勝負」という男性審査官の2人。取り組む事件は、栃木県S市のホテル3社が、ウェディング費用を3社で話し合って値上げ幅を決めているという「カルテル事件」です。

 2人は、S市に出張して、ホテルが密談の場所ではないかと「張り込み」をしたりしていました。そこに、3社の1社「Sクラシカルホテル」のオーナー社長が、経営するホテルで、刃物で刺されて意識不明の重体になる事件が起きます。その後も、白熊と小勝負が同ホテルで張り込みを続けていたところ、3社のうち1社の「ホテル天沢S」の社長が現れます。その社長の車を審査官2人が尾行していった先の隣の市の温泉街で、刃物を持って社長に近づいていく男を発見し、空手を得意にしている白熊が、その男を空手の技で取り押さえて社長を助け、男を警察に引渡します。

 しかし、それによって、2人の審査官の張り込み・尾行が把握されてしまい、「ホテル天沢S」の社長から、「何か違法な点があるなら改善するから是非教えてほしい」などと、審査の動きを牽制する申入れがあり、カルテルの件の審査は一旦棚上げになってしまいます。

 ここで、「緑川」という女性の出向検察官が登場します。

 私も経験した「出向検察官」ですが、「検察と公取委との関係」「出向検察官の役割」などについて書かれていて、このあたりが間違っていることだらけです。例えば、 

公取委は独禁法違反を取り締まるのが仕事だが、一部には刑事罰が科されていて、起訴権限は検察が独自に持っているので、縄張りが一部被っている。
検察に無断で公取委が調査を進めたことで、関係が悪化したことがあったが、現在は、両者協力して案件を進めており、検察庁からの出向の受け入れもある。

と書かれているところです。

 公正取引委員会は、独禁法違反について、行政調査権限に基づいて調査(審査)を行い、その結果によって、排除措置命令・課徴金納付命令等の行政処分を行います。カルテル、談合等の悪質・重大な違反行為については、国税局と同様の反則調査権限に基づく調査を行って、その結果に基づいて、検察庁と協議した上で、検察に告発します。

 「縄張りが一部被る」などということではありませんし、公取委の調査は、検察に「無断で」進めるのが当然です。ただ、告発を行おうとする場合には、検察と協議を行う枠組みがあって、「告発問題協議会」と呼ばれます。この枠組みは、私が、1990年に公正取引委員会に出向していた際に関わってできたものです。

 また、出向検事は、独占禁止法が制定された時から、法35条7項で

「事務総局の職員中には、検察官、任命の際現に弁護士たる者又は弁護士の資格を有する者を加えなければならない。」

とされており、公正取引委員会には事務総局(当時は「事務局」)の職員として検察官が最低1人は出向しています。関係悪化が解消されたから検察からの出向が受け入れられている、というわけではありません。

 さらに問題なのが、出向検事の緑川が、審査官向け研修の際にした以下の発言です。

研修の締めくくりで、

「調査を行うなかで、犯罪の端緒を発見した場合は、出向検察官に必ず申し出てください。警察と連携して検挙してまいります」

と発言しているのですが、「出向検察官」の役割を完全に誤解しています。

独占禁止法では、検察官職員について、上記の規定に続く35条8項で

「前項の検察官たる職員の掌る職務は、この法律の規定に違反する事件に関するものに限る。」

と規定されています。

 公正取引委員会の検察官職員は、「検察官」であることに変わりはないので、刑訴法上は、犯罪の端緒を得て捜査を行う権限を有していますが、独占禁止法違反以外の犯罪の捜査に関わることは、独占禁止法が禁止しているのです。

 検察官職員は、独占禁止法違反の犯罪について、公正取引委員会の告発に関する業務に関わることに加えて、独占禁止法違反の行政調査について、公正取引委員会職員に対する指導助言を行います。

 いずれにしても、独占禁止法違反に関するもの以外の一般の犯罪捜査等には、一切関わってはならないのですから、「公正取引委員会の調査の中で、一般の犯罪について端緒が発見されたら出向検察官が申し出を受けて警察と連携して捜査を行う」などということは、明らかに独占禁止法の条文に違反するのです。

 緑川が研修終了後に、小勝負と白熊を呼び止めて発言した内容も明らかに違法です。

 「宇都宮地検から連絡があった。審査長らとも共有している。審査長から仰せつかった内容を私から説明しておく」とした上で、2人が「ホテルオーナー殺人未遂事件」(2件目)の容疑者の逮捕に協力したことの礼を言った後、1件目の殺人未遂事件について「全く身に覚えがない」「話合いをするために現場に行っただけ」と述べて犯行を否認している容疑者の石田の「証言の裏どり」を依頼するのです。

 容疑者の花屋の石田は、「ホテル天沢S」のブライダル部門に花を納入している業者ですが、ホテル側から無理難題を押し付けられて経営が苦しくなり、ブライダル部門に掛け合ったのに全く話にならず、ホテルの専務に直訴しようと、人気のないところで話をしようとしただけだと供述しています。緑川は「公正取引委員会がそのような納入業者いじめを立件していないのは職務怠慢だ」と言って、「納入業者いじめについて調べるように」と指示するのです。

 それを受けて、小勝負と白熊は、栃木県に向かい、石田の花屋に赴き、妻に帳簿を出させて、ホテルとの取引について話を聞き、「取引と関係ないディナーショーのチケットやおせち料理の購入を迫られていた」という話を聞き出します。それが端緒なって、下請けいじめの「優越的地位の濫用」が行われているという疑いで、「ホテル天沢S」を含め、全国にホテル業を展開する「天沢グループ」に大規模立入検査が行われることになります。

 この話の通りだとすると、公正取引委員会の審査官が刑事事件に遭遇し、被疑者の逮捕に協力した後、出向検察官が、その刑事事件の被疑者の供述の「裏どり」のために、「下請けいじめ」の独禁法違反の行政調査を行うように指示した、つまり、公正取引委員会の審査活動を、一般の刑事事件の捜査に活用するように指示したということになります。

 これは、公正取引委員会として、絶対に行ってはならない「行政調査の犯罪捜査への流用」にあたります。

 一般的に、独禁法に限らず、様々な法律に「行政調査権限」が規定されていますが、拒否すると罰則が科される調査については、それを犯罪捜査の目的で行うことは、黙秘権侵害につながるので、許されません。これは当然のことなのですが、念のために、行政調査権を定める規定には、必ず「処分の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」との規定が設けられています。独占禁止法も、47条4項にこの規定があります。

 緑川の発言は、宇都宮地検の犯罪捜査への協力として独占禁止法違反を立件して調査を行うように指示しているので、この通りであるとすると、明らかな「違法調査」になってしまいます。

 公取委と検察との関係、出向検察官の役割、犯罪の端緒と公取の審査の関係などについて、大きな誤解に基づくこの小説のストーリーは、殺人未遂事件、銃刀法違反事件、違法植物栽培事件などの刑事事件と公取委の審査活動が交錯するという方向で展開していきます。独占禁止法違反審査、独占禁止法違反の行為の捉え方も含めて、リアリティーは極めて乏しいものと言わざるをえません。

 このような小説を原作とするドラマが、果たして、公正取引委員会を描くドラマとして、どのようなドラマになるのでしょうか?

重大な興味関心をもって、7月11日月曜日午後9時のドラマ「競争の番人」の初回を視聴することにしたいと思います。

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