小池百合子氏に対する公選法違反の告発状の再提出について

小池都知事の定例会見での発言が「公務員の地位利用による選挙運動」に当たり違法であるとして告発した件です。
郷原信郎 2024.07.17
誰でも

7月5日に、上脇博之神戸学院大学教授と郷原とで、都知事定例会見での小池氏の発言が「公務員の地位利用による選挙運動」であるとして東京地検に提出した告発状については、「小池氏の発言が選挙運動に該当することの根拠が不十分」だとして、先週末、告発状が返戻されていましたが、昨日(7月16日)。定例会見での発言が「選挙運動」に該当することの判例上の根拠などを示すなど、告発の理由を大幅に加筆した告発状を作成し、東京地検に提出いたしました。

告発状は、以下のとおりです。

***

告  発  状

2024年7月5日

東京地方検察庁 御 中

<告発人>

住所 東京都港区六本木6-2-31六本木ヒルズノースタワー9階

氏名   郷原 信郎  (郷原総合コンプライアンス法律事務所代表弁護士)

住所 兵庫県神戸市西区学園東町4-22-12

氏名   上脇 博之  (神戸学院大学法学部教授) 

<被告発人>

住所 東京都新宿区西新宿2丁目8−1

氏名 小池 百合子

職業 東京都知事

告発の趣旨

上記被告発人について、下記「第1 告発の事実」に記載する行為は、下記「2 罪名及び罰条」に記載する法条に違反するため、早急に捜査のうえ、厳重に処罰していただきたく告発する次第である。

第1 告発事実

被告発人小池百合子は、東京都知事の職にあり、令和6年6月20日告示、同年7月7日投票の東京都知事選挙に立候補しているものであるが、同選挙運動期間中の同年6月28日午後2時から、東京都新宿区西新宿2丁目8−1東京都庁会見室において開催した、オンラインで生中継放映される都知事定例会見の場で、「昨日ゲリラ的に回られてどのような手応えがあったのか、どういった方が手を振り返してくれたのか、また知事の公約の部分を訴えかけて、どういったところを集中的に街宣車で訴えたいか、そういったとこあれば教えてください。」との質問に答えて、「昨日で申し上げると、各地、区部を回らせていただきました。いや、ともて反応は良かったことを実感いたしました。新橋の仕事を終えたビジネスマンに向かっても訴えて、クールビズなどはまさに楽で実感していただいているのかなと言ったら、『そうだ』という声が返ってきたり、あとそうですね、やはり子育て中の方々については非常に子育てと教育でお金がかからない東京というのは非常に伝わっているなということを感じました。これからも色々と私の場合、その街頭演説等も場所とかですね、車の位置付け等々、やはり何かとこの安倍さんとか前回のつばさとかですね、正直、具体的に言ってしまいましたけれど、色々制約が出てきて非常に限られてくるわけでございますけれども、逆にその街頭演説も行いますけれども非常に街を全体見まして、また、様々な反応を実感をして、よりこれからもそういった形で、都民の皆さんの中に入っていこうというふうに考えております。」などと発言し、もって、東京都知事の地位を利用して選挙運動を行ったものである。

第2 罪名及び罰条 

公職選挙法136条の2第1項1号 239条の2第2項 

第3 告発の理由

1 被告発人小池百合子は、地方自治体である東京都の行政のトップたる地方公務員であり、その「公務の場」を選挙運動に利用することは、「公務員の地位利用による選挙運動」に該当する。

本件は、都の政策に関する公務としての知事定例会見であるにもかかわらず、その質疑応答の中で、都庁クラブ担当記者からの街頭演説の手応え、どういう人が手を振り返してくれたかなどの選挙運動についての質問に答え、自らの選挙運動の状況や有権者の反応を具体的に説明するなどしたものである(同会見での質疑応答での被告発人の発言には、他にも選挙運動に該当すると思えるものも多数あるが、街頭演説の状況と有権者の反応について述べている本件発言部分が、「選挙運動」としての性格が最も顕著なので、告発事実は本件発言部分に限定した。)。

2 選挙運動とは、判例上、「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために、直接または間接に必要かつ有利な行為」と解されているところ、本件に類似した面がある事案として、市の職員の大多数が加入している労働組合が推薦候補者として決定し、組合員及び家族に周知していた候補者が、当時、同市役所で就業時間内の職場オルグが慣行化し、市当局も黙認していた状況下で、市民課において演説を行った行為が「選挙運動」に該当するか否かが争われた事案で、「機関紙等を通じて、傘下の組合員及び家族にAが市労連推薦候補者であることを伝達周知させていたのに、選挙運動期間中に同市庁舎に赴き、一般市民も集散する市民課において演説を行い、同候補が推薦候補者であることを重ねて伝達して周知徹底をはかった被告人らの行為は、単なる市労連の組織内の純然たる内部行為にとどまるものではなく、同推薦行為者を当選させるための投票獲得の意図の下に行われた選挙運動のための演説と認めるのが相当である」と判示して市民課における演説を「選挙運動」と認めた判例がある(最判昭和52年2月24日)。

3 本来、都知事定例会見は、都政を担当する記者に対する都の政策の説明を行い質問を受けるなど、都知事としての広報及び報道機関の取材対応の場であり、必ずしも一般公開されなければならないものではないが、最近では多くの地方自治体で首長会見がインターネット公開されており、東京都でも、東京都のホームページにおいて動画配信されている。

もっとも、他の自治体では、現職の首長が立候補した場合には、選挙運動に専念するので選挙運動期間中の定例会見は行われないのが一般的であるが、被告発人は選挙運動期間中であったにもかかわらず定例記者会見を開催し続けたうえに、本件告発事実の記者会見も、誰でも閲覧できるように動画配信を続けていた。当然、本件選挙における選挙権者である都民も自由に閲覧できた。

上記判例の事案において、「市民課における演説」が、一般市民も集散する場での演説であったことから、純然たる内部的行為にとどまるものではないと判断されたのと同様に、被告発人の都知事定例会見での発言も、インターネット同時配信され、選挙人である都民すべてが会見を同時に閲覧することが可能であり、内部的行為にとどまらないことは明らかである。

また、発言内容については、上記判例の事案では、「同候補が推薦候補者であることを重ねて伝達して周知徹底をはかった」ものであり、直接的に投票依頼をする行為ではなく、選挙における支持を拡大することで、同候補者の当選可能性を高めようとする行為であるのに対して、本件では、被告発人は、選挙運動として行っている街頭演説で、「どのような手応えがあったのか」と質問され、「新橋の仕事を終えたビジネスマン」が、「クールビズ(被告発人が環境大臣時代に発案して導入したものとされている)」について「楽で実感していただいているのかな」と言ったら、「『そうだ』という声が返ってきた」と言ったり、「『子育て中の方々』が『子育てと教育でお金がかからない東京』が伝わっているな」という有権者の反応について述べたものである。

これらの発言が、選挙運動期間中であったがゆえに、東京都知事選での選挙運動に対して有権者の反応が良好であることを同選挙の選挙人たる東京都民に伝えることにより、選挙情勢が有利であると認識させ、それによって自らへの投票を誘引しようとする意図によるもので、「自らが当選するための投票獲得の意図の下に行われた選挙運動のための発言」であることは明らかであり、被告発人の発言は選挙運動に該当する。

4 公職選挙法136条の2第2項で「公職の候補者が、支持される目的をもつてする場合に、公務員の地位利用による選挙運動に該当するものとみなす。」とされている行為の中に、「その地位を利用して、新聞その他の刊行物を発行し、文書図画を掲示し、若しくは頒布し、若しくはこれらの行為を援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。」が含まれており、公務員が地位に基づいて行う「広報活動」を、選挙での支持を得る目的で行った場合が、地位利用による選挙運動に該当する例とされている。同様に、知事定例会見という公報の場を選挙運動に利用する行為も、地位利用による選挙運動となり得ることは明らかである。

被告発人の行為は、選挙運動期間中に動画配信することをわかった上での行為であり、現職の都知事としての公務としての定例会見を行う地位を利用して選挙運動を行うことで、そのような場も機会もない他候補と比較で選挙において著しく有利になるものであり、選挙の公正を害するものである。

そこで、被告発人の行為について、厳正なる処罰を求め、告発に及んだものである。

5 なお、本件は、記者会見に参加した記者の質問に答えて発言したものであり、被告発人としては、かかる質問を受けても、都知事の公務としての会見なので、公務に関する質問に限定して応答すべきだったものであり、選挙運動に関する質問に、むしろ積極的に反応したことが、選挙運動を有利に進める意図、すなわち、当選を得る目的での発言と解されるものである。

もとより、そもそも、現職知事であるとともに、都知事選の立候補者である被告発人に選挙運動に関する質問を行ったテレビ朝日島田直樹記者の側も、被告発人が公選法に違反して選挙に関する発言を行うことを意図していた可能性があり、そのような質疑応答をすることについて事前の意思連絡があった場合はもちろん、質問に際して、暗黙のうちに被告発人との意思連絡が行われたと認められる場合にも、共犯の成立の可能性がある。

しかし、本件会見では、上記島田記者の質問の後も、他の記者から選挙運動に関する質問が相次いでおり、会見参加記者の多くが、公務としての都の政策についての説明の場であるにもかかわらず、当然のように、選挙に関する質問を行っている。その背景には、都知事選の告示直後の八丈島等の公務視察で選挙演説を行うなど、公務と選挙運動を混然一体とさせた活動を行っていることに追従し取材報道をしていた大手メディア全体の姿勢によるもののように思える。

かかる事情を考慮し、告発人らは、本件告発においては、本件での質問者個人は告発の対象としなかったものである。上記のような背景も含め、質問者側、記者側の共犯の成否についても鋭意捜査を行うべきと思料するものである。

添付書類

令和6年6月28日東京都知事定例会見(21:55~24:09)起こし

都知事定例会見

小池氏)テレ朝さんどうぞ。

記者)テレビ朝日です。島田です。先ほど知事、今、街宣車で昨日回らせた手応えがあったというということですけども、昨日ゲリラ的に回られてどういった手応え。

小池氏)ゲリラじゃないですけど、正当の選挙戦だと思います。

記者)どのような手応えがあったのか、どういった方が手を振り返してくれたのか、また知事の公約の部分を訴えかけて、どういったところを集中的に街宣車で訴えたいか、そういったとこあれば教えてください。

小池氏)この間ですね、昨日で申し上げると、各地、区部を回らせていただきました。いや、ともて反応は良かったことを実感いたしました。新橋の仕事を終えたビジネスマンに向かっても訴えて、クールビズなどはまさに楽で実感していただいているのかなと言ったら、「そうだ」という声が返ってきたり、あとそうですね、やはり子育て中の方々については非常に子育てと教育でお金がかからない東京というのは非常に伝わっているなということを感じました。これからも色々と私の場合、その街頭演説等も場所とかですね、車の位置付け等々、やはり何かとこの安倍さんとか前回の翼とかですね、正直、具体的に言ってしまいましたけれど、色々制約が出てきて非常に限られてくるわけでございますけれども、逆にその街頭演説も行いますけれども非常に街を全体見まして、また、様々な反応を実感をして、よりこれからもそういった形で、都民の皆さんの中に入っていこうというふうに考えております。

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