高市氏出馬会見、党紀委処分で裏金議員「非公認」を否定、「『ちゃぶ台返し』はできない」に重大な疑問

自民党総裁選、裏金議員への対処が問題になっています。
郷原信郎 2024.09.11
誰でも

自民党総裁選に向けての出馬表明の動きが本格化してきた8月28日、本欄の記事【自民党総裁選出馬会見、「政治とカネ」問題で「抜本改革」を打ち出せない小林・河野、他の候補者は?】で、岸田首相が総裁選不出馬に追い込まれた最大の原因となった「自民党派閥政治資金パーティーをめぐる裏金問題」の経過と、岸田首相の対応を振り返り、総裁選における「政治とカネ」問題の論点を整理し、その時点で出馬会見を行っていた小林鷹之氏と河野太郎氏の、この問題に対する会見での発言について論評しました。

「裏金問題」への対応には、派閥から政治資金パーティーの売上のキックバック等を受け、政治資金収支報告書に記載しなかった議員(裏金議員)に対して、どのような対応を行うのかという問題と、このような「裏金問題」を含め、政治資金制度をどのように是正していくのか、具体的に政治資金規正法をどう改正していくのか、という二つの問題があり、これらについて、総裁選の候補者が、国民に全く評価されなかった岸田首相の対応とは異なるどのような施策が打ち出せるかが注目点だと述べました。

そして、小林氏、河野氏に共通する裏金に関する事実解明を否定する姿勢について、岸田首相がこれまで国会答弁で繰り返してきたことと全く変わらないものであり、その理由とする

「捜査権を持つ検察以上のことは自民党にもできない」

というのは全くの誤りであることを述べました。

検察が行えることは、刑罰法令を適用し、刑訴法に基づく権限を行使して、証拠により犯罪を立証して処罰を求めることです。適用する刑罰法令に問題があれば処罰が困難になり、刑訴法上の権限を用いることにも、黙秘権、令状主義等による制約があります。

一方、自民党として裏金の事実解明を行おうと思えば、「公認権」という党所属議員の生殺与奪の力を有している自民党総裁が、裏金受領議員に、受領の経緯、保管状況、使途について可能な限り調査して報告させ、十分な説明責任を果たすことを次期衆院選の公認の条件とすれば、相当程度の事実解明ができるはずだと述べました。

また、河野氏が、裏金議員への対応として

「不記載と同じ金額を返還をしていただくことでけじめとする」

などと述べたことに対しても、「裏金」は、派閥から所属議員にわたったものであり、自民党は返還を求める立場ではないことを指摘しました。

裏金議員への対応について、8月24日に出馬表明した石破茂氏は、説明責任を尽くすことの必要性を強調し、公認についても新執行部で検討する余地があると述べています。一方、6日に記者会見を行った小泉進次郎氏も、

「対象となった議員の公認については、説明責任が尽くされているか。再発防止に取り組んでいるか、地方組織、県連の意見を聞いて新執行部で判断する」

と述べています。一方、茂木敏充氏は、

「(衆院)解散が決まった時点で党選対本部で厳正に判断したい」

としか述べていません。9月3日に出馬会見を行った林芳正氏は、

「総裁が代わったからと言って、政倫審、党の党紀委員会等の手続をとって決定したことを何も手続もとらないで変えることはあってはならない」

と述べ、小林氏と同様に、

「新たな事実が出てきた場合には、党としての調査を考える」

と述べました。

そして、マスコミの情勢調査等では、石破氏、小泉氏と並び有力候補の一角とされている高市早苗氏が、9日に出馬会見を行いました。

高市氏は、裏金議員への対応について問われ、

「自民党で処分が決まっている。8段階の処分の中には『非公認』もある。非公認より厳しい処分が5名に下されている。非公認を含めて党内で積み重ねてきた議論を総裁が代わったからと言ってちゃぶ台返しをしたら独裁」

だと述べて、新総裁に就任しても、裏金議員への公認等について検討する考えはないと述べました。

基本的な趣旨は林氏と同様ですが、党紀委員会で「非公認」も含めて検討した上で、処分が決定されたことを強調し、それを覆すのは「独裁」とまで言い切ったことで、裏金議員の公認を見直すことを明確に否定しました。この高市氏の発言は、次期衆院選での公認の見直しなどという話にならないよう、固唾をのんで総裁選の行方を見守っている80人を超える裏金議員の支持を得る上では、この上なく効果的なものと言えるでしょう。

しかし、一見、論理的に見える高市氏の「裏金議員への処分見直し否定論」ですが、そこには重大な疑問があります。

まず、第一に、自民党の党紀委員会で決定された処分というのは、自民党という組織の中で、組織の論理の範囲内で議論され決定されたものであり、それに対して、国民から強い反発批判が生じているからこそ、岸田内閣の支持率が低迷し、現職首相の総裁選不出馬という結果につながったものです。今回の総裁選において、そのような岸田総裁の下の自民党内で行われたことを、既に一定の手続を経て決定済だという理由で、すべて「是」として見直さない、というのでは、自民党内では通用しても、国民に対しては全く理解されないでしょう。

第二に、その党紀委員会の決定の前提事実に合理性があるのか、という問題です。裏金議員に対する自民党の従来の対応がなぜ国民から厳しい批判を受けているのか、それは、何と言っても、自民党の多くの議員が、政治資金として収支報告書で公開もしない「裏金」を得ていたことが発覚したのに、刑事処罰を受けないどころか、納税すらしないで済まされていることに対する納税者としての強い憤りです。

国民の多くは、裏金議員の中には、その金を個人の懐に入れていた議員が相当数いるのではないかと疑っています。裏金議員の側は、すべて「政治資金として使っていたもので、議員個人が懐に入れていた金はない」と説明し、自民党の側も、その弁解を丸呑みして、裏金はすべて「政治資金」との前提で、党紀委員会の処分が行われています。

党紀委員会の処分についての自民党の発表(【党紀委員会の審査結果について記者会見】)を見ても、派閥幹部として不適切な会計処理への関与が疑われた派閥幹部のほか、「不記載議員」については、

《過去5年において、自身の政治団体に多額、2000万円以上の不記載があった議員の政治的、道義的責任も重いとの判断でした。上記以外にも、過去5年において、自身の政治団体に相当な額、1000万円以上、もしくは500万円以上の不記載がある議員について、会計責任者に任せきりで不適正な処理としてしまった者の管理責任も問われるとの審査結果でした》

とされており、この「不記載」は、すべて会計責任者が行ったことで、議員本人は、「会計責任者に任せきりで不適正な処理としてしまった者の管理責任」だけが問題にされています。

しかし、実際には、そうではなく議員個人の用途に使われていたと考えざるを得ない事実も明らかになっています。

例えば、「裏金議員」の一人の堀井学氏が、資金管理団体の政治資金収支報告書に、安倍派から還流されたパーティー収入約1700万円を寄付として記載しなかった政治資金収支報告書の虚偽記入と、秘書らを通じて選挙区内の52人に香典計38万円や枕花(約23万円相当)を贈った公職選挙法違反(選挙区内の寄付)の罪で略式請求されたことです(堀井氏は事件を受け議員辞職)。

この件について、堀井氏が派閥から受領した「裏金」を原資として香典等を有権者に渡していたと一部で報じられています。検察の起訴事実によると、「資金管理団体が堀井学を名義人として寄附をした」というのではなく、堀井氏自身が寄附の主体とされています。資金となった派閥からの裏金は政治団体ではなく政治家個人に帰属し、それを原資に香典等が贈与されたということになります。

たまたま明らかになった堀井氏の事件で、裏金が政治団体ではなく個人に帰属した疑いが濃厚になっているのです。それ以外の議員について、すべて政治団体に帰属し、個人に入った裏金は全くなかったと、どうしていえるのでしょうか。

ところが、仮に、議員が、「裏金」を、秘書や会計責任者に委ねることなく自分の懐に入れていたという場合、上記の党紀委員会の処分では、「会計責任者に任せきりで不適正な処理としてしまった」とは言えないので処分を免れることになってしまうのです。

第三に、そもそも、「非公認」という処分も含めて、党紀委員会で検討の上、「非公認」より重い処分が5人に下されているので、新総裁に代わっても、裏金問題に関連して「非公認」にすることはできない、という高市氏の理屈も明らかにおかしいと思います。

確かに自民党の党規律規約では、(1)除名(2)離党勧告(3)党員資格停止(4)選挙での非公認(5)国会・政府の役職辞任勧告(6)党の役職停止(7)戒告(8)党則順守勧告という8段階の処分が予定されており、その中の4番目として、「非公認」も含まれています。

しかし、それは、党紀委員会の審査の対象とされた事実について、適切と判断された処分が選択されたということであり、既に述べたように、そのような前提事実で党紀委員会の処分を決定したことが国民に理解されていないのですから、新総裁が、その処分だけでは国民の理解が得られないと判断した場合に、その点について、対象議員に説明を求め、その説明が尽くされない、或いは、説明困難なことがある、ということであれば、総裁として公認を再検討する余地があるのは当然です。

結局のところ、党紀委員会で「非公認」の選択肢も含めて検討した結果「非公認」の処分が行えなかったので、その件に関して公認の見直しはあり得ないという高市氏の主張は全く通る余地はありません。

高市氏が、なぜ、このような理屈を持ち出してまで、裏金議員の公認見直しを否定しようとするのか。現時点での総裁選の情勢が、仮に決戦投票に残った場合に、「裏金議員からの圧倒的な支持」を受けようとする思惑があるのかもしれません。

しかし、説明も十分にせず、納税の義務も果たさない裏金議員に対して「大甘」な対応のままでは、仮に総裁選挙を乗り切ったとしても、選挙で国民の理解と信頼を得ることは困難でしょう。

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