ドラマ「競争の番人」での公正取引「委員会」の扱い方に注目!

とうとう天沢ホテルに立ち入り!公正取引「委員会」の委員が登場!?
郷原信郎 2022.07.19
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新川帆立氏の「競争の番人」と題する小説と、それを原作とするフジテレビの同名のテレビドラマ(月曜午後9時~放映)原作小説について、このニュースレターの【「競争の番人」原作小説、ここが間違ってる!】で、原作小説が、実際の公正取引委員会での独占禁止法違反事件の審査活動の実情とは凡そかけ離れたリアリティーがないものであることを指摘していたところ、7月11日放映の初回は私が指摘した原作の問題の部分はドラマにはなく、リアリティーに大きな問題はないドラマになっていました(【ドラマ「競争の番人」初回放送、原作小説とのリアリティの違い】)。

 7月17日には、朝日の言論サイト「論座」にも、【原作よりリアリティーが高まったドラマ「競争の番人」 専門家の注目点は?】と題する記事を出しました。

18日のドラマの2回目も注目して視聴しましたが、リアリティーについては、ほぼ初回と同様の印象でした。脚本のストーリーが、原作から大幅に変更され、ほとんど原作とは別物になっているドラマもありますが、このドラマでは、ストーリーは、概ね原作に沿って作られています。しかし、重要な部分で、原作とは異なる場面が出てきて、それがリアリティーを高めています。

原作の問題点がうまくカバーされ、リアリティーが高められていると感じた大きな点は、「公正取引委員会」なのに、「委員会」が全く登場しない原作とは異なり、ドラマでは、「立入検査の実施」について、「公正取引委員会の5人の委員の了承を得る」という重要なプロセスが出てきたことです。

公正取引委員会は、国家行政組織法3条に基づく独立行政委員会で、内閣の所轄とされていますが、その権限行使には、高度な独立性が認められています。公正取引委員会の調査権限は、すべて委員会に帰属するもので、その決定によって事務総局の審査局に与えられた権限を、審査長以下の審査官が具体的に行使するのです。ところが、原作の小説には、公正取引委員会という「委員会」が全く出てきません。誰がどう決定したのかが不明なまま、立入検査の実施の決定や排除措置命令の決定が行われるようなストーリーになっていました。

昨日の2回目のドラマでは、「悪役」として登場する山本耕史扮するホテル天沢の絶対権力者の専務「天沢雲海」によって解雇されたホテルの施設長の「長澤」が、小勝負ら、公取委の審査官側に寝返り、前回の立入検査を拒否した天沢雲海の出張中に、退職前の有給休暇消化中に敢えて出勤して、施設長として立入検査を承諾して公正取引委員会に協力することを自ら申し出るという場面が出てきます。

そもそも、前回の立入検査が実質経営者によって「全面拒否される」という「異常事態」が発生しているわけですから、長澤の協力によって再度の立入検査を実施するということであれば、公正取引委員会を構成する5人の委員の了承を得て行うのが当然です。ところが、原作では、そもそも「委員会」も、それを構成する委員も、ストーリーの中には全く出てきませんでした。この立入検査についても、長澤が協力を申し入れた場面の後、いきなり「立入検査の決行日は12月24日」という話になって、その当日の場面になります。

ドラマでは、原作とは異なり、寺島しのぶ扮する第6審査長の本庄聡子が、その案件の審査の期限が年末までとされている状況の下で、委員会の5人の委員の「持ち回り」で、立入検査の了承を得ることに奔走します。12月24日の当日、小勝負ら審査官が、早朝、車で立入検査に出発した後に、最後の1人の委員に「原議書」へ押印をもらった本庄が、その旨、立入検査のため車で待機していた小勝負らに電話で伝え、「思う存分調べてきて!」と指示する場面が描かれています。

実際には、公取委の立入検査についての委員会が「持ち回り」で行われるということは殆どないのですが、何か重要な証拠を押さえる緊急の必要があるという場合などに「持ち回り」で行うことも、手続き上は可能です。公取委の審査官が行う立入検査と「委員会の了承」との関係を、刑事事件での捜索差押と裁判官の捜索差押許可状の発付のような関係でとらえたことで、スリリングな展開に描かれています。まさに、ドラマの演出の妙味と言えるでしょう。

本来、原作の小説が、5人の委員からなる「公正取引委員会」の存在を完全にネグっているのは、公取委を、警察等の捜査機関と同様の組織のように位置付け、それらとの比較で、その「弱さ」を強調するためだったのかもしれません。

一方、ドラマでは、公正取引委員会という存在を初めて描くドラマという点を重視し、「委員会の5人の委員の承認」という手続を取り上げたのだと思いますが、それが、ドラマとしてのクオリティーを高めているように思います。

このような点で原作よりリアリティーがあり、「この原作で、よくここまで作り込んだな」と感心しながら見ていましたが、最後に、原作とほぼ同じストーリーで「リアリティーの欠如」が否定し難い場面が出てきました。

小勝負・白熊の2人が、長澤から「カルテルの証拠の隠し場所がわかった」と言われて、ホテルの旧館の書庫に案内され、そこで、部屋のドアの前に携帯やカバンを置いて中に入ると、ドアが閉められ、中に閉じ込められる、という場面です。この場面で昨夜のドラマは終わりました。

原作では、二人が携帯電話等を持たないで閉じ込められたために、外部と連絡がとれず、寒い室内で翌朝まで閉じ込められることになり、翌朝警備員に発見された後に、警察に通報されて、「不法侵入」の疑いをかけられます。さらに、白熊にとっては、交際相手がクリスマスディナーのレストランで待っているのに、連絡もつなかないまますっぽかすことになります。

ここでの最大の問題は、2人が、なぜ、携帯電話を部屋の外に置いたのか、という点です。

原作では、閉じ込められた後のところで、「電子機器の類は廊下に置いてきてしまった」としか書かれておらず、なぜ、置いてきたのかは書いてありません。ドラマでは、長澤が、部屋に入れる際に、「電子機器はここに置いてください」と言って、トレイのようなものを指さし、二人はそれにしたがって、スマホなどをそのトレイに置くのですが、いくらその部屋への入室管理が厳重だと言っても、そもそも、施設長の長澤が案内しているわけですから、携帯電話を置いていくように言う理由がよくわかりません。まして、2人が、カルテルの証拠を見つけるためにその部屋の中に入るのであれば、重要な証拠が出てきた際にスマホですぐに撮影する必要があるはずです。

この点のリアリティーについては謎が残ったまま、2回目のドラマは終了しました。

原作では、旧館の書庫に閉じ込められた2人は、そこで、宿泊台帳から、カルテル当事者の名前を発見し、ホテル天沢が様々なカルテルのための「密会の場」を貸し出していること、そのカルテル部屋の特別利用料を慈善団体への寄附に回していることを突き止める、というような荒唐無稽なストーリーにつながっていきます。

原作のリアリティーの無さは一層顕著になっていくのですが、次回以降、ドラマでは、どのようなストーリーになっていくのでしょうか。

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