文春記事訂正で混迷を深める「フジテレビ問題」、第三者委員会をめぐる疑問と今後の展開

なぜフジテレビが会見で文春報道の変更について触れなかったのか。2通りの見方があります。
郷原信郎 2025.02.05
誰でも

フジテレビは、2023年6月に番組出演タレントの中居正広氏と同社社員だった女性との間で生じた事案に関連する報道を受けて、1月17日に、港浩一社長(当時)ら経営陣が最初の記者会見(以下、「17日会見」)を開いたものの、テレビカメラを入れず、会見参加者も質問者も限定する、会見時間も制限するという、あまりにクローズなものだったこと、設置する調査委員会が、第三者委員会であるか否かも不明確だったことが猛烈な批判を受け、会見後、大手企業のスポンサーの間にフジテレビでの広告を見合わせる動きが拡がりました。

そこで、23日に、事実関係の調査・事後対応やグループガバナンスの有効性を、客観的かつ独立した立場から調査・検証するための第三者委員会の設置を公表しました。

この委員会については、日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下、「日弁連ガイドライン」)に準拠するもので、委員長の竹内朗弁護士ら3名の委員を選任したとされ、調査報告書を3月末に会社に提出し、その後速やかに公表する予定であり、調査委嘱事項は、以下のとおりとされています。

  • 1) 本事案への当社及びフジ・メディア・ホールディングスの関わり

  • 2) 本事案と類似する事案の有無

  • 3) 当社が本事案を認識してから現在までの当社及びフジ・メディア・ホールディングスの事後対応

  • 4) 当社及びフジ・メディア・ホールディングスの内部統制・グループガバナンス・人権への取組み

  • 5) 判明した問題に関する原因分析、再発防止に向けた提言

  • 6)その他第三者委員会が必要と認めた事項

そして、27日に、親会社のフジ・メディアホールディングズ(以下、「フジHD」)の会長・社長も含めた記者会見(以下、「27日会見」)を開き、「取引先、視聴者など皆様方に多大なるご心配とご迷惑をおかけした」として謝罪して嘉納修治会長と港浩一社長が引責辞任することを明らかにしました。

記者会見は、テレビカメラを入れ、参加者を制限せず完全オープン、フリー記者、ユーチューバーなども含め400人が参加して行われましたが、10時間超にわたった会見は、一方的かつ執拗な追及、的外れな質問なども多く、それらを会見主催者が制御できない「無秩序会見」となりました。

27日会見の直後、今回の問題の発端となった週刊文春の報道に関して、週刊文春側が

《【訂正】本記事(12月26日発売号掲載)では事件当日の会食について「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」としていましたが、その後の取材により「X子さんは中居に誘われた」「A氏がセッティングしている会の"延長"と認識していた」ということがわかりました。お詫びして訂正いたします。また、続報の#2記事(1月8日発売号掲載)以降はその後の取材成果を踏まえた内容を報じています。》

として記事の訂正を行いました。

この文春記事の訂正に対してフジテレビ内部では強い反発が生じていると報じられており、港社長の辞任を受けて急遽就任した清水賢治新社長も、文春への訴訟提起も選択肢の一つであるように述べています。

17日会見の失敗を受けての27日会見で経営陣が10時間超の糾弾を受けるまでの間、一方的に批判に晒されていたフジテレビ側が、文春の記事訂正で、一部「反撃」に転じたような雰囲気も感じられました。しかし、世の中やマスコミの論調の大半は、

「不正確な記事でフジテレビ批判を炎上させた後に訂正に至った文春側も問題だが、それによって、フジテレビ側の中居氏と社員間のトラブルへの対応や女性の人権への配慮の欠如などの問題がなくなるわけではない」

というもので、フジテレビへの批判は基本的に変わりません。スポンサー離れは全く解消されておらず、混迷はますます深まっています。

このようなフジテレビをめぐる問題の経緯の中で不可解なのが、「第三者委員会の設置の経緯」です。それは、問題の発端となった文春記事が訂正されたことによって、謎が一層深まったと言えます。

企業不祥事としての特異性

日弁連ガイドラインでも述べているように、第三者委員会は「不祥事によって失墜してしまった社会的信頼を回復すること」を目的とし、「企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するために設置」されるものです。

私は、企業の外部者の専門家だけで組成する「第三者委員会」の草分けとなった不二家消費期限切れ原料使用問題での「信頼回復対策会議」の議長を務めたほか、多くの企業等での第三者委員会委員長を務めてきました(【第三者委員会は企業を変えられるか 九州電力やらせメール問題の深層】毎日新聞社:2012)。

そして2016年から2020年に日経bizgateに掲載された《郷原弁護士のコンプライアンス指南塾》では、【企業の不祥事対応における第三者委員会の活用】を3回にわたって連載しました。

その連載の冒頭で、

昨年来、日産自動車、スバルの完成検査をめぐる問題、神戸製鋼所をめぐる問題を発端とする品質データ改ざん問題、スルガ銀行のシェアハウス融資をめぐる問題など、企業不祥事が相次いで表面化している。不祥事の事実関係の調査・原因究明、再発防止策の策定を求められる不祥事企業にとって、内部調査で対応するのか、外部弁護士を含めた調査を行うのか、第三者委員会を設置するのかは難しい判断である。また、委員会を設置する場合に、委員長・委員をどのように選任するのか、調査体制をどう構築するのかが重要となる。

と述べています。

一般的な企業不祥事では、問題となる事実の中身は明確であり、そのような問題について企業側が認めて謝罪した上で、その問題事実の詳細を明らかにし原因分析等の調査を行うために第三者委員会が設置されます。

フジテレビの問題は、それとは異なります。週刊文春の報道を発端に疑惑が発生し、それに対するフジテレビ側の対応が批判の対象とされ、会長・社長が引責辞任に追い込まれるという「重大不祥事」に発展しました。

発端となった文春記事で会社側の問題として指摘された事実(A氏の関与)については、フジテレビ側は明確に否定するコメントを公表していました。その文春記事が訂正されたのであるから、通常であれば、それによってフジテレビ側の主張が裏付けられ、信頼が回復するようにも思えます。しかし、問題は、それほど単純なものではありませんでした。

第三者委員会設置の経緯をめぐる謎

上記のとおり、フジテレビの問題は、第三者委員会が設置されるまでの経過が、一般的な企業不祥事とはかなり異なります。その経緯にはいったい何があったのでしょうか。

1月24日にフジテレビで開かれた社員説明会で、17日会見の時点で「第三者委員会を設置する」と説明せず「第三者の弁護士を中心とする調査委員会」という曖昧な言い方になったことについて、嘉納会長が、

「17日の港社長らの記者会見の前から第三者委員会設置を検討しており、フジテレビ側が竹内朗弁護士に第三者委員会を作るために相談した際、『取締役会で正式に決議する前は第三者委員会という言葉は一切表に出さないように、第三者委員会の《だ》の字も出してはいけない』と言われた。17日の会見の際に石原常務が、幅を持たせて、第三者委員会に限りなく近い、という言い方をしたのは、第三者委員会という言葉を使えないから、調査委員会っていう説明になってしまった」

などと述べていました。

その点について、27日会見で、「フジテレビ側が第三者委員会委員長に就任した弁護士と、委員会設置が決定される前に接触して綿密な打合せをし、その指示に基づいて動いていたことは、第三者委員会の独立性・中立性を害していて問題なのではないか」と質問された嘉納会長は、

「事務方で交渉して調べて、竹内弁護士に依頼することが決まり、挨拶にお伺いした時に取締役会で第三者委員会の設置を決定する前には第三者委員会とは言わないでくれと言われた。」

との趣旨の説明を行いました。さらに、フジHDの金光修社長が、

「日弁連のガイドラインに従った第三者委員会を選択肢に入れながら、過去に付き合いがある弁護士事務所を除外し、過去の実績を調べて、結果的に竹内弁護士を選任した。1月17日の記者会見以降緊急監査等委員会で承認を受け、発表する前に、リリースの手続を聞いたところ、第三者委員会を開くことを取締役会の承認がない時点で発表したらその任は受けられないということだった」

などと説明しました。

竹内弁護士への依頼の経緯に関する疑問

しかし、このような嘉納氏、金光氏の説明には疑問があります。

嘉納氏の社員説明会での発言内容から、フジテレビ側が、17日会見の前に竹内弁護士と接触していることは明らかです。その時点では、昨年12月26日に最初の文春記事が出されたことを受け、翌日に、「事実でないことが含まれ、当該社員は会の設定を含め一切関与していない」と否定コメントを出すなど、基本的に、フジテレビとしては、同社が責任を負うべき問題であることを否定していました。ところが、年明けの週刊文春の続報などを受け、フジテレビへの世の中の批判が高まりました。

この局面では、その週刊文春が報道した問題というのは、フジテレビ側にとっての「企業不祥事」とは認識しておらず、それにもかかわらず批判が高まっていることに対して、社内調査も含めた調査の在り方や会見の設定、そこでの説明の仕方などの「危機対応」が重要な課題となっている状況だったはずです。

竹内弁護士は、不祥事調査と危機管理を専門とする弁護士であり、17日会見の前の時点で同弁護士と接触したのであれば、まずは、文春報道での急激な批判の高まりを受けての危機対応について相談し、その中で、弁護士中心の調査委員会、あるいは第三者委員会の設置等も選択肢として対応を検討するのが自然な流れです。

そのような相談が行われていたとすると、その後、第三者委員会が設置され、竹内氏が委員長に選任されたことに関しても疑問が生じます。

「文春報道の変更」へのフジテレビの無反応

中居氏と社員との問題でフジテレビが社会から批判された原因は文春報道でした。それだけに、同社にとって、危機対応として最も重要だったのは、その文春報道の中身を正確に見極めることでした。

昨年12月26日に発売号の記事(以下、「当初記事」)を前提にすれば、A氏の関与というのは「中居氏と女性社員の会食を設定し、ドタキャンして二人きりにしたこと」によって、意図的に、中居氏と女性社員の二人きりの場を作ったというものでしたが、1月8日発売号の記事(以下、「修正記事」)では、「X子さんは中居に誘われた」と、当日のA氏の関与の形態が変更されていました。

批判を受けている当事者であるフジテレビ側が、この記事内容の変更に気づいていなかったはずはありません。ここでの危機対応においては、最新の文春報道の内容(修正記事)を前提に、記者会見での説明を行う必要がありました。

ところが、17日会見では、港氏らは文春記事の内容の変更に全く言及せず、

「当該社員の聞き取りのほか、通信履歴などを含めて調査、確認を行った結果を受け、弊社HPにおいて見解をお伝えしました。中居氏が出した声明文においても、当事者以外のもの、すなわち、中居氏と女性以外の第三者が関与した事実を否定しています。ただ、この点につきましても、調査委員会の調査に委ねたい」

と述べるだけでした。

12月27日にフジテレビが出した「当該社員は会の設定を含め一切関与していない」と同趣旨のことを繰り返し、文春報道が当初記事のとおり「A氏が、会食を設定し、ドタキャンした」という事実であることを前提に、「A氏の関与」を否定していたのです。

文春の当初記事は、A氏が中居氏と女性社員との二人きりの場を意図的に作ったことを強く印象づけるもので、それにより、フジテレビの「上納文化」が問題にされるなどして、フジテレビの「女性の人権」軽視の姿勢が厳しく批判されることにつながりました。

記者会見でも、質問者の多くは当初記事を前提として港氏らに「A氏の関与」の有無を問い質していました。それは、17日会見だけではなく、10時間超に及んだ27日会見の時点でも同様でした。

その会見後に、「A氏の関与」について記事の訂正・謝罪が行われ、それまでの世の中の誤解や会見での質問者の誤解は、週刊文春側の訂正・謝罪が遅れたことによるものだとして、文春側が批判されています。

しかし、17日会見の時点でも、既に続報で報道内容の変更は行われていたのであり、フジテレビ側も当然認識していたはずです。それについて、文春側に訂正を求めることもできたはずです。少なくとも、文春の当初報道を前提に「上納文化」などの批判が拡がっていることについて、フジテレビのHPで文春の記事の内容が変更されていることを指摘することや、記者会見で誤解に基づく質問を受けた際に、文春報道の内容が既に修正されてることを指摘することもできたはずです。

ところが、27日会見でも、「当該日についてのA氏の直接的関与」を前提とする質問が行われたのに対して、港氏らは、文春の記事が変更されていることに言及することなく、「当該日の関与はない」と繰り返しました。

フジテレビは、「文春記事の変更」をなぜ指摘しなかったのか

なぜ、フジテレビ側は、文春の当初記事の内容が変更されたことを指摘し、世の中や質問者の認識を改めようとしなかったのでしょうか。

一つには、フジテレビという企業の危機管理能力の欠如が原因だとする見方があります。同社は、経営陣・上層部が制作局出身者で占められ、報道部門が軽視されてきたため、事実を突き詰め、誤っていれば正すという能力が欠如していたという見方です。それは、結局のところ、長年にわたって日枝久氏が絶対権力者として君臨してきた同社のガバナンスの構造的な歪みによる弊害とみることになります【YouTube《郷原信郎の日本の権力を斬る!》での週刊朝日元編集長山口一臣氏の見解】。

しかし、「危機管理能力の欠如」ということであれば、フジテレビ側が17日会見の前に危機管理の専門家である竹内弁護士と接触し、調査を依頼しようとした際、委員会を設置する原因となった文春報道についても説明したはずです。調査受託の可否を検討するに当たって、文春報道が変更されているのに誤った前提で批判非難を受けているという事態は、その時点での危機管理において無視できない事情であり、その点は話題になったはずです。それは、「第三者委員会」という言葉を出すか出さないかなどということよりはるかに重要な問題です。

そのように考えると、フジテレビ側が、文春報道の変更を指摘しようとしなかったことが、単なる危機管理能力の欠如によるものとは考えにくいように思います。

もう一つの可能性として考えられるのが、フジテレビ側が、文春報道の内容の変更を認識した上で、それが世の中に十分に認識されていないこと、会見でも、当初報道を前提とする追及が行われている状況を、意図的に放置した可能性です。

当初記事では、「A氏の関与」を、「会食を設定しドタキャンした」として報じていました。それを、17日会見では、港氏が「当事者の話も聞き通信履歴も確認して調査した結果」に基づいて否定していました。

そのような当初記事を前提に第三者委員会の調査を行うとすれば、まず、上記のような「A氏の関与」を否定した会社側の調査結果が正しかったのか、それを覆す証拠や事実がないのかを確かめることが調査の中心となります。

しかし、実は、その事実は、既に文春報道が修正記事に変更されており、実質的に否定されています。当然、第三者委員会の調査の結果も、フジテレビの調査が正しかったとされることになります。

一方、変更後の修正記事は、「X子さんは中居に誘われた」「A氏がセッティングしている会の"延長"と認識していた」としています。そこで書かれているとおりだとすると、第三者委員会の調査では、女性社員が「A氏がセッティングする会の延長」となぜ認識したのか、その認識したことの背景に何があるのか、そのような女性社員の認識につながるどのようなA氏の言動があったのかを調査することとなります。A氏の女性社員に対する言動を全体的に把握することに加えて、そのようなA氏の言動の背景に、フジテレビの「上納文化」と言われるような企業体質があるのかどうかも調査対象になり、それは、フジテレビにとっての「問題の本質」に調査が及ぶことになりかねません。

フジテレビ側としては、そのような事態になるより、当初記事に基づいて「A氏が会食を設定し、ドタキャンした」との事実が調査の対象になっていた方が、当日のA氏の言動などに問題を絞ることができ、好都合だったはずです。そこで、文春報道の変更に気づきながら、敢えて、世の中や会見での質問者の誤解を放置した可能性もあります。文春記事について、橋下徹氏が明示的な訂正・謝罪を要求したことは、フジテレビ側にとっては「ありがた迷惑」な話だったのかもしれません。

もし、そのような理由で、文春記事の変更を放置したのだとすると、フジテレビ側の今回の問題への対応姿勢そのものに疑問が生じることになりますが、嘉納氏が社員説明会で述べたように、17日会見の前にフジテレビ側が竹内弁護士と面談したことを前提にすると、その面談の中で、文春報道の変更への対応についても話し合われた可能性もあることになります。

竹内弁護士が、「第三者委員会の言葉は取締役会決定までは出さない」との条件の下で調査の委託を受けた際、どのような調査事項が想定されていたのでしょうか。文春報道の変更を認識していたのかどうか、第三者委員会側にも説明責任が生じます。

この点は、フジテレビの問題の今後の展開にとって重大な問題になりかねません。

17日会見の前の時点では、フジテレビの危機対応として、第三者委員会の設置、ましてや「日弁連ガイドライン準拠」というのは、現実的な可能性として想定されておらず、だからこそ、第三者委員会の「だ」の字も出してはいけない、という話だったのではないでしょうか。それが、17日会見の大失敗によって、フジテレビは猛烈な社会的批判とスポンサー離れの事態に直面し、急遽第三者委員会を設置することが不可避となりました。第三者委員会委員長として、他に選択肢がなく、竹内弁護士が受託せざるを得なかったのではないでしょうか。23日の社員説明会で、嘉納会長が、第三者委員会の設置前の委員長との接触状況を暴露し、その発言内容がネットで公開されることなど、全く想定外だったはずです。

設置時に委員全員が会見に臨んだジャニーズ「第三者委員会」との比較

今回のフジテレビの第三者委員会の設置の経緯に疑問が生じかねないことは、27日会見に第三者委員会側がどのように関与するのか、委員長などが会見に登壇するのかなどの判断にも影響している可能性があります。

17日会見で、フジテレビ経営陣の信頼は大きく損なわれ、自力での信頼回復は困難な状況に追い込まれていました。だからこそ、「日弁連ガイドライン準拠の第三者委員会」の設置という選択を敢えて行わざるを得なかったのでしょう。そうであれば、27日会見において、経営陣やその支配下にある内部者に代わって、第三者委員会側が積極的に表に出ることで信頼回復の第一歩とすることが重要でした。

フジテレビとフジHDの経営陣5人による記者会見を3~4時間程度でとりあえず打ち切って、第三者委員会の委員長が登壇し、フジテレビとは一切利害関係がない、独立かつ中立的な立場で調査を行い、調査結果をとりまとめて報告書を公表すること、フジテレビ社員や関係者に対しては、調査への協力によって一切不利益を受けることはないことのメッセージを発したりすることで、「第三者委員会の調査」を主題として提示することができ、会見の追及的な雰囲気も相当程度変えることができたのではないでしょうか。

一昨年に表面化し、大きな社会問題になった「ジャニー喜多川氏の性加害問題」が、イギリスのBBCで取り上げられ、日本でも大きな問題となった時点で、ジャニーズ事務所は、「外部専門家による再発防止特別チーム」を設置し、その時点で、林真琴弁護士(元検事総長)などのメンバーが記者会見を行いました。その後公表された同チームの報告書も、経営責任を厳しく問うものとなり、概ね評価されました。その後の記者会見で「NG記者リスト」問題などの失態があり混乱を生じましたが、少なくとも「第三者委員会」の設置と報告書公表までの対応には特に問題はありませんでした。

フジテレビの今回の問題は、日本の報道では「中居氏と女性社員とのトラブル」とされていますが、海外メディア等の報道では、このトラブルについて「性加害問題」とされており、ジャニーズ事務所の問題と同種事例ととらえることも可能な案件です。

しかし、フジテレビの第三者委員会に関しては、設置時に記者会見を行うことは全く考えていなかったようです。1月23日の第三者委員会設置のリリースの最後に第三者委員会委員長に就任した竹内弁護士のメッセージが掲載されていることからも明らかです。それは、既に述べたような第三者委員会の設置の経緯に関係しているのかもしれません。

企業不祥事としての「特異性」と第三者委員会調査の困難性

本件は、フジテレビ経営陣が、文春報道によってにわかに高まった社会的批判への危機対応に失敗したことで、会長、社長が引責辞任し、その後に、その文春報道が訂正されたこともあって、その「不祥事の具体的な内容」自体が茫漠とした中で第三者委員会が設置されたという事案であり、しかも、その大きな問題がある危機対応の経過に第三者委員会側が関与した疑いがあるという面においても、極めて特異な企業不祥事です。

それだけに、第三者委員会側としては、調査報告書の内容でそのような疑念を解消すべく、「日枝支配によって歪められたガバナンス」などについても積極的に調査に取り組むことになるでしょう。しかし、本件は、そもそも企業不祥事として特異であり、第三者委員会調査も決して容易ではありません。

一般的に、第三者委員会の調査の手法は、(ア)社員(退職者)などの関係者のヒアリング、(イ)社内資料の分析、(ウ)フォレンジック調査、(エ)社員などへのアンケート調査、(オ)情報提供窓口での情報提供の募集等があります。

(ア)のヒアリングによって直接の供述で事実を具体的に把握するのが基本ですが、本件の場合、中心となる調査事項1)の「本事案へのフジテレビ社員の関わり」も、文春の記事訂正により、《女性社員の「A氏がセッティングしている会の"延長"との認識」を生じさせた事実》、という漠然としたものになっており、それを裏付ける関係者を特定することも容易ではありません。そのため調査事項の2)の「本事案と類似する事案の有無」についても、関係者を特定するのは容易ではありません。

そうなると、(ウ)のフォレンジック調査、(エ)の社員全体を対象とするアンケート調査が有力な手段となります。既に、第三者委員会委員長から社員全員にアンケート調査への協力要請が行われているようです。しかし、完全匿名のアンケート回答の場合、内容の真実性が確認できません。回答者のヒアリングへの協力が得られるかどうかが鍵となります。

今回の問題の本質が、「40年以上にわたる日枝久氏の支配によるガバナンスの歪み」にあるというのは、衆目の一致するところでしょう。しかし、そのガバナンス問題を、「本件事案」とどう結び付けることができるのか。3月末の報告書提出の期限までに、具体的事実を明らかにする調査を行うことは、決して容易ではありません。

民放キー局を含む巨大メディア企業を襲った「フジテレビ問題」、その巨大不祥事の今後の展開は、全く予断を許さない状況です。

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